異色の経歴で昆虫界を盛り上げる男の仕事観 餌を運ぶ「働きアリ」に自分の姿を重ねていた
そして、翌年の岡本太郎現代芸術賞に入選し、作品を展示できることになりました。草むらを描いて、そこに自分でとってきた虫を、生きている状態の雰囲気で描いていくという5メートルの作品です。展示期間中にも虫をとるたびにどんどん描いていきました。僕にとって大きな経験でした。
大勢の人に見てもらわないと意味がない
もうひとつ大きかったのは、岡本太郎賞に落選した作品を、別のコンペに出品して、オーディエンス賞をもらったことです。
当時の僕は、一般の方々に選ばれても、審査員に認められなかったことがとても悔しいと感じていました。やはり、専門家や画廊などに見いだされなければと考えていたのです。
けれど今では、オーディエンスに選ばれたこと自体がすごいと思っています。つまり、アートとしては認められなくても、一般受けする作品を描けるのだから、イラストレーターとしての能力があるんじゃないか――そんなふうに自分のことを肯定できたんです。
さらに、岡本太郎賞の受賞作品が展示されたものの、頑張って友人たちを呼んでも、美術館まで足を運んでくれる人はそう多くありませんでした。絵を宣伝しなければならず、それならSNSで大勢のフォロワーを持っている人のほうが、作品を見てもらえる機会が多いのです。
そこで、受賞後は、ゆるふわ漫画を描いてSNSで公開しはじめました。絵画は時間がかかり、更新頻度も遅くなるうえに、あまり興味も持たれない。だったら、漫画はどうだろうと考えたのです(そもそも漫画家にもなりたかったですし)。
それからは、思いついたことは何でもメモして、電車のなかでも落書き感覚でクロッキー帳に描いていきました。今でもそうですが、僕は電車のなかで人を描くのがクセなんです。
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