異色の経歴で昆虫界を盛り上げる男の仕事観 餌を運ぶ「働きアリ」に自分の姿を重ねていた

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結局朝6時から夜は9時過ぎまで働くことも少なくなく、部屋のドアに画用紙を貼って少しずつでも絵を描こうと思っていたのですが、それもまったく進まず。また休日もなく。段ボールを運ぶ肉体労働もあったせいか帰宅後はそのまま5秒で寝てしまうほどつねに疲れていました。

だから、僕が漫画に描く「働きアリ」は、まさに僕自身の実体験を重ねたものでもあります。アリが角砂糖のようなものを運ぶ絵をたくさん描いていますが、あれは僕が運んでいた段ボールでもあるのです。

会社員を捨てて踏み出した理由

この頃は、絵を描く時間もなく、だんだん「人生これでいいのかな」という思いが膨らんでゆきました。安定した収入があってもやってみたかったことは一切できていなかったのです。そこで「フリーランスに挑戦するために300万円貯金しよう」と目標を立てたんです。そのために僕はここで働くんだと。それからは毎日キャベツばかりを食べて、朝から晩まで働きづめで本当に大変でしたが、目標は達成できて、会社をやめました。

ただ、いくら300万円があっても、フリーランスは収入が安定していない危険な道です。収入ゼロからのスタートです。それでも会社員を捨て、踏み出したのは、岡本太郎さんの「迷ったら危険な道を選べ」という言葉が頭にあったからです。僕は岡本太郎さんがずっと好きで、じゅえき太郎という名前も、岡本太郎さんからとったものなんです。

そして、絵の道に進んだからには岡本太郎賞に入選し、岡本太郎美術館で作品を展示しなければならないという思いを持ち、「賞をとるまで死ねない」という考えで、必死で絵を描きました。

1年目の選考は落ちました。半年以上かけた絵が落選して、もうやめようかと思いましたが、落選通知の手紙に「惜しい」みたいなことが書いてあったんです。それなら、もう一発行ってみようと。

次ページ翌年の岡本太郎現代芸術賞に入選
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