元リクルート37歳の作家が「地面師」を描いた訳 「地面師たち」の新庄耕は著作に何を込めたか
被害額は3桁億円がいい
――舞台は東京・港区の泉岳寺駅前に広がる駐車場。金額にして100億円。実際の事件とは所々ディテールが異なります。
実際の土地は五反田の廃旅館で、被害額は55億円。それと同じじゃ物語としては弱い、という話になった。やっぱり3桁億円じゃないと。といっても、地価の高い東京でさえ3桁億円もする土地は意外に見つからない。港区、千代田区、中央区……地図を広げて探していたら、ちょうどJR山手線の高輪ゲートウェイ駅前に広い駐車場を見つけた。不動産業界の方々からも「あそこならいいんじゃない」というお墨付きももらって、ここを物語の舞台にしようと。周辺にはお寺が多いから、住職が土地を持っている設定にしました。
不動産はモノがあるじゃないですか。それが絵的にすごく面白い。大金が動く様子を映像として描くことができる。これが金融だったら、画面の中で数字が移動するだけになってしまう。
――本物の地面師には会えましたか。
たまたまツイッターで出会った不動産関係者の1人は事件の主犯格だった地面師と会ったことがあって、指が欠けていたといったリアルな話が聞けました。意外だったのが、普段の地面師はまともな仕事をしていること。おいしい話があったときだけ、地面師として暗躍する。
僕自身は、直接地面師に会ったことはありません。取材は裁判資料を見たり、地面師事件を担当している弁護士に話を聞いたりするのが中心。参加費2万円の地面師対策セミナーなるものにも参加して、地面師の歴史や構成員の人物関係図、契約時の書類の見方などが書かれた冊子ももらいました。