元リクルート37歳の作家が「地面師」を描いた訳 「地面師たち」の新庄耕は著作に何を込めたか

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――お金さえあれば幸せになれるとは限らない。

もう1人、ある大手企業の役員とも何度か飲んでいました。ビルを所有してお金も持っているんですが、遊び方が下品なんですよね。モデルを連れてニューヨークに行って、みんながいるところで女性の胸をわしづかみにして喜んでいる。これが金稼ぎのゴールなのか、と悩みました。崇高とは言いませんが、お金ではない何かを得られる仕事がしたいなと思い始めました。

学生時代に新聞社でアルバイトをしていましたが、物書きの経験はありませんでした。ただ、当時大手ハウスメーカーで営業をしていた友人が、激務とストレスでガラっと変わってしまって。これを小説にしたら面白いかな、と思って筆を執ったのがきっかけです(編集注:第1作『狭小邸宅』)。

だますプロセスを楽しむ

――主人公が一般人である一方で、地面師グループの主犯格・ハリソン山中は、グリズリーが人間を襲う光景を目の当たりにして性的興奮を覚えるなど、異様な雰囲気が漂います。

最初は違う人格だったんですが、編集部から「狂気が足りない」と言われて(笑)。

『地面師たち』(集英社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

――大悪党でも普段は普通のおじさん、という例もよくありますが。

お金を稼ぐためなら、地面師以外にもやりようはある。何か大きなきっかけがないと、地面師なんかにはならない。むしろ地主になりすまして他人の土地を売買する一連のプロセスに快感を得ているのでは、と思ったりします。お金も大事なんですが、生きている感じというか、お金ではない何かが目的にあってもいいと思います。

――現実の時点では地面師グループはお縄になりますが、小説では捜査の手を逃れたハリソン山中が海外へ高飛びします。

初稿では逮捕されて終わるはずだったんですが、単なるハッピーエンドでは面白くない。主犯格が捕まったら終わりだから、逃がしたほうがいいとなって書き直しました。ボツ原稿はまだ残してありますよ(笑)。

今、続編を執筆中で、舞台は釧路とシンガポールです。続編ものの2作目はつまらなくなりがちですが、そうならないよう頑張ります。

(撮影:今井 康一)
野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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