元リクルート37歳の作家が「地面師」を描いた訳 「地面師たち」の新庄耕は著作に何を込めたか
――不動産業は未経験。
僕は自宅すら買ったことがなくて、不動産の実務がわからない。一度、土地の地上げについて知りたくて、「ダンプカーで突っ込むんですか? 石とか投げるんですか?」とか聞いたら、「全然そんなんじゃない、もっと勉強したほうがいい」と言われて(笑)。調べてみたら、意外とスマートに買っているとわかった。契約手続きなど、法律面でも間違いがあってはいけないので、気を遣いました。
お金があってもやることがない人がいる
――主人公・拓海はタクシー会社を解雇され、その後勤めたデリヘル嬢の送迎もトラブルになり再びクビ。人生を悲観していたとき、デリヘル客だった地面師の男から渡された名刺を思い出して連絡を取ったことから地面師の世界に足を踏み入れます。
僕は1983年の生まれで、終身雇用が崩れたときに社会人になった世代。大手企業も安泰じゃないからと、ベンチャー企業やフリーランスがもてはやされました。レールが敷かれていない中、自分で生きる道を探さないといけない。そういう時代を描きたいと思っていました。
僕自身、新卒で入ったリクルートを辞めた後、派遣として働いたり、映画を撮ろうとしたり、マルチ商法にも手を出したりしました。家庭を持って、35年のローンを組んでマイホームを持って、いわゆる普通の暮らしには魅力を感じなかった。だとしたら、どういうふうに生きたらいいんだろうかと悩みました。
今でも印象に残っているのは、リクルート退社後に知り合った電気工事士のおっちゃん。相続した土地を転がして資産を築いて、本業の電気工事はとっくに辞めている。家族は東京・広尾に住まわして、自分は六本木でフィリピン人のお手伝いさんと悠々自適に過ごしている。
――うらやましい。
ただ、「すごい暇だ」って言うんですね。お金はあるからクラブに行けばお姉ちゃんを抱けるけど、そんなのはもう飽きた。酒も好きじゃない、服も興味がない、本も映画も見ない。「新庄君、俺、本当にすることがないから、気が狂って自殺しそうになるんだ」などとノイローゼになっていて。それだけお金があればいろいろできるのにな、と思う一方、お金を稼いでこういう人生を送りたいのかというと、ちょっと違う。