チェルノブイリ被災者との会話で得たある視点 本を読んで予想した事はだいたい裏切られる
ゲンロンが危機にあった2012年から2015年のあいだ、カフェやスクールとはべつに、もうひとつ力を入れていた事業がありました。それがチェルノブイリへのツアーです。1986年に原発事故を起こした、あのウクライナのチェルノブイリです。
2013年に出版した『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』(以下『チェルノブイリ』)を文字どおりのガイドブックとして、ぼくと監修者の上田洋子さん(現代表)が講師になって(第1回は上田さんのみ)、じっさいにチェルノブイリの原発事故跡地を訪ねてみる1週間ほどのスタディツアーです。旅行会社(2013年の第1回はJTBコーポレートセールスさん、2014年の第2回以降はHISさん)と組み、いままでに5回開催しています。
ほとんどチェルノブイリを知らなかった
『チェルノブイリ』は2013年4月の取材をもとにつくった書籍です。その取材があまりに印象的だったことから、読者をじっさいに現地に連れていきたいという思いが募り、同年の秋からツアーの企画を始めました。
本書で何度か述べた、オンライン(書籍)の情報を「オフラインへの入り口」として使うという実践の典型で、売り上げこそ小さいですが、ゲンロンの精神を体現する事業だと位置づけることができます。今年(2020年)はコロナ禍で開催できませんでしたが、今後も続けるつもりです。
2013年の取材の時点では、ぼくも上田さんもチェルノブイリについてそれほど詳しくありませんでした。上田さんはロシア語の専門家だったけれども、原発事故に強い関心があったわけではありません。
取材チームの一員だったジャーナリストの津田大介さんも社会学者の開沼博さんも、福島には詳しかったけれどもチェルノブイリのことはほとんど知らなかった。取材先も上田さんが直接アプローチして決めたので、原発事故に詳しいジャーナリストやNPOに紹介されて行ったわけではありませんでした。
つまり、ぼくたちはみな素人で、まさに「観光客」として、いったいチェルノブイリはどうなっているのだろう、ぐらいの気持ちで現地を訪れたのです。結果的にはそれがとてもいい効果を生みました。
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