日本人は地域のダークサイドに無関心すぎる 「悲しみの土地」を観光することで見えるもの
人類の悲劇を巡る「ダークツーリズム」が世界的に人気です。悲しみの土地をあえて気軽に観光することで見えてくるものは何なのでしょうか? 日本ではまだなじみが薄いこの旅のポイントを観光学者の井出明氏の新著『ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅』から抜粋して考えます。
ダークサイドを観る意義
「闇があるから光がある」
この言葉は、プロレタリア作家・小林多喜二が、愛する田口タキに送った恋文の一節である。小樽で育ち、地元の名門校を出て銀行に就職した多喜二は、親に売られ、小料理屋で私娼として生きる彼女と運命的な恋に落ちる。エリートである多喜二の求愛に彼女は気後れするが、手紙では「つらい経験をしたからこそ、これから幸せの道を探していこう」という流れの話が続く。
人生でダークサイドをまったく持たない人間はまずいないであろうし、そのつらく厳しい過去は人としての魅力を培う。地域にも、光の部分があれば、必ず悲しみをたたえた影の記憶もある。悲しみの記憶を巡る旅人たちは、その地に赴き、亡くなった人たちの思いや、場の記憶を受け継ぐ。そしてそれを持ち帰り、また誰かに伝えていく。
ダークツーリズムとは、戦争や災害をはじめとする人類の悲しみの記憶を巡る旅である。私は、以前から、戦争や災害の跡はもちろん、人身売買や社会差別、そして強制労働などに関連する場を訪れてきた。
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