日本人は地域のダークサイドに無関心すぎる

「悲しみの土地」を観光することで見えるもの

今後は、日本から自然災害に関連したダークツーリズムの情報を積極的に発信することで、すでに欧米で発達したダークツーリズムの方法論との高次のコラボレーションが期待されるとともに、新しいダークツーリズムの展開が予想される。

また、ヨーロッパで発達した戦争のダークツーリズムに関しても、日本からは独自の発信が行われるべきであろう。ヨーロッパにおける第2次世界大戦に関する記憶は、ヒトラーを悪のシンボルに見立て、二度とファシズムの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)を許さないというテーゼを確立することに中心が置かれていた。したがって、ダークツーリズムの研究もナチズムを復活させないための方法論として分析されることが多かった。

一方、日本の第2次世界大戦は、中国に対する侵略の側面もあれば、一部南方に対しては解放戦争としての性質も有していた。同時に、サイパンなど旧南洋庁の島々では、日本の統治を肯定的に評価する声も多々ある。このように、日本の戦争は多面性を持ち、単純な二元論では割り切れない。日本が公に自己の戦争を肯定することは許されないが、日本の第2次世界大戦に関連する研究を発信することで、ヨーロッパとは異なる戦争のコンテクストへの理解が広がることも期待される。

さらに、近年まで続いた元ハンセン病患者の強制隔離や近世から近代にかけての隠れキリシタンの苦難については、日本に固有のダークツーリズムのコンテンツであり、海外のダークツーリストに対しては、大きな訴求力を持つ。こうした日本に独特の悲劇に関する研究は、日本が国として受け入れるツーリストの幅を広げることにも寄与するであろう。

このように、わが国は今後のダークツーリズムの研究および発展に独自の立場から貢献することが可能なため、より積極的な立場からこの新しいフロンティア領域を開拓していくことが求められる。

一方、日本において顕著に見られる傾向であるが、悲劇の場への来訪を不謹慎と見なす風潮は、ダークツーリズムの普及の足かせとなっている。

ダークツーリズムの意義を説くことは重要であり、これは私自身の責務として果たさなければならないが、現実の世界では次から次へとさまざまな問題が起こっている。観光学は理念だけでは成立しない分野であり、現場の問題を解決できなければ画に描いた餅になってしまう。

悲しみの記憶の断絶が、さらに大きな悲しみを招来する可能性がある以上、新たな悲劇を生まないためにも、その記憶を確かなものにすることは非常に重要な意義を持つ。そして、その記憶の承継こそがダークツーリズムが担うべき本質的役割なのである。

ダークツーリズムで残された課題

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Dark tourism(ダークツーリズム)という言葉が生まれて、まだ20年程度であるが、問題も現れ始めている。この新しい旅の形は世界中で広まりつつあり、ダークツーリズムの聖地とも言われるアウシュビッツでは、ここ10年で入場者数が3倍以上に増えてしまい、博物館には長蛇の列ができている。

実は、アウシュビッツ訪問の拠点となるクラクフからは、ツアーバスが頻繁に運行されており、悲劇を商売にしているのではないかという批判もある。また、9・11同時多発テロの現場であるニューヨークのグラウンド・ゼロでは、大量の観光客の入り込みが厳粛な祈りを妨げており、ダークツーリズムは物見遊山と区別できないという意見も出ている。

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