以上のような課題を踏まえて、ベンチャー有識者会議では、ベンチャー創造の好循環の実現に向け、次のような政策提言をしています。
年金基金の投資ポートフォリオの変更による資金の流れづくり、ベンチャーに対する思い切った税制優遇、ベンチャーからの政府調達の増加、国の研究プロジェクトへのベンチャーの参加、規制緩和の推進、公的セクターの経営資源の解放
初等教育からの起業家教育の充実、大学・大学院の起業家教育の強化、ベンチャー支援人材の10倍増、グローバルベンチャー人材の増加、女性・若者・シニアによる起業の支援、再チャレンジの促進
ベンチャー創造協議会の創設、出口戦略としてのM&A促進、スピンオフ・カーブアウト促進、クラウドファンディングなど新たな起業支援モデルの構築
ベンチャー有識者会議の議論は、ベンチャーを再定義しつつ、日本のベンチャーの現状を整理し、今後の政策について展望しています。委員からの多面的な意見は、現在の日本のベンチャーをめぐる論点をほぼすべてカバーしており、有意義な議論となっているといえるでしょう。そして、ここでの政策提言の主要な施策が、成長戦略改訂版に盛り込まれ、今後、実行されていくことになります。成長戦略改訂版のベンチャー支援を読み解く資料として、この報告書はぜひご覧いただきたいと思います。
なぜ政府が口を出すのか
さて、読者のみなさんの中には、「ベンチャーは自然に育つもの。政府が口を出すべきではないのではないか」との疑問の声もあるかと思います。しかし、政府がベンチャーを支援するべき理由は、あります。
その理由とは、ベンチャーや新事業の中から「雇用」と「イノベーション」が創出されるためです。事実、企業の社齢ごとの雇用の増減を見ていくと、新しい企業ほど雇用を創出していきます。企業の成長段階での雇用創出が大きいとの研究結果もあります。
さらにわれわれの生活を豊かにするイノベーションの多くは、ベンチャーから生まれているものです。スーパーマーケット、宅配便、パソコン、検索エンジン、SNSなどは、すべてベンチャーから生まれています。また、医療福祉サービスや新エネルギーなど、今後の成長が期待される産業や、既存産業の変革でも、未開拓の市場を機動的に攻めるベンチャーの活躍が期待されるところです。
もちろん、政府の役割は限定されたものでなければなりません。「官主導のベンチャー」というものは、ありえないものです。政府の役割は、あくまで環境整備をすること。「エコシステム(生態系)」という言葉がベンチャー支援の世界でよく使われるようになりましたが、森の生態系のように大木と若木が共存共栄する、創業、成長、大企業化、廃業、再生などのサイクルの好循環が自律・発展的に回るような環境を整備することが、政府の役割と考えられます。
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