デキるはずの人が時々重大ミスをしでかすわけ 選択式試験で育たないのは論述力だけではない

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記述式試験と、空所補充式またはマークシート式の試験、それぞれにおいて頭の使い方がどう異なるか、ここでは国語の試験問題を例にして説明しよう。

見直しで身に付く注意ポイント

2004年に行われた千葉県立高校入試の国語で、地図を見ながらおじいちゃんに道案内をする文を書く問題が出題されたが、受験者の半数が0点だった。書いた文から「唯一通り」に目的地にたどり着くことができるか否か、という点で失格な答案が多かったのである。

地図の説明は、一意的(唯一通り)に定まる文を書けるかどうかを判定するために、優れた試験問題である。満点を取るには、4つの観点(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)を満たしていなくてはならない。

(ア)改札口がいくつもある駅では、「改札口を出て左に行く」といった表現では一意的に定まらない。「北口の改札口を出て左に行く」というように、どの改札口を出るのかを述べる必要がある。
(イ)「前後、左右」という言葉を用いるときは、それが自分の立場なのか、他人の立場なのかを明示しなくてはならない。
(ウ)進む方向だけではなく、進む距離も述べる必要がある。例えば、「東京タワーの方向に歩いていくと、目標の建造物が左側にある」と伝えるだけでは不十分である。
(エ)進む距離だけではなく、進む方向も述べる必要がある。例えば、「東京タワーまで約1kmの距離にいる」と伝えるだけでは不十分である。

地図の説明を全文記述式でなく、空所補充式で解答させる場合にはどうなるか。「直角」「平行」などの図形用語を書き込むか、建物の名称を書き込むことになるだろう。マークシート式だったら書き込む代わりに選択肢から選ぶことになる。

空所補充式やマークシート式の試験では、受験生がたとえ見直しをしたとしても、(ア)~(エ)の4点にじっくり注意を払うとは限らない。同じ形式の練習問題をいくらやっても同様で、見直しで注意すべき点が身に付かないのである。

結局、正確に伝わる文章は全文記述式の練習をしない限り、書けるようにならない。職場で「メールを書いたのに、用件が相手に伝わらない」と感じる人は、その辺りにも原因があるかもしれない。

数学の学習では、中学校で「作図」を学ぶ。作図とはコンパスと(目盛りのない)定規で図を描くことで、その描き方を各ステップずつ述べる「作図文」も併せて学ぶ。

作図文は、地図の説明文と同様に一意的に定まる書き方をしなければならない。これは今日、コンピューターのプログラム作成の基礎としてますます意義を増している学習なのだが、現実には時間的制約から、コンパスと定規で図を描く指導で終わっているケースが多い。

マークシート式試験の対策ばかりしていると、「見直し力」は十分に鍛えられない。マークシート式試験だけが得意だったという人は、一度、自分が仕事の中で見直しをこまめにしているかどうか、振り返ってみるとよいのではないだろうか。

さらに、物事を深く理解していると「見直し」も深いところからできるが、理解せずに「やり方」だけ暗記しているとうわべだけのチェックに終わることも付言しておこう。

芳沢 光雄 数学・数学教育者

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よしざわ みつお / Mitsuo Yoshizawa

1953年東京都生まれ。東京理科大学理学部教授(理学研究科教授)、桜美林大学リベラルアーツ学群教授などを歴任し現在、桜美林大学名誉教授。理学博士。国家公務員採用I種試験専門委員(判断・数的推理分野)、日本数学会評議員、日本数学教育学会理事も歴任。著書に『AI時代に生きる数学力の鍛え方』(東洋経済新報社)、『新体系・大学数学入門(高校数学、中学数学)の教科書(上・下)』(ブルーバックス<講談社>)などがある。数学プロセス (https://sugaku-process.net/)というホームページも運営

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