須賀:妹島さんに何かお願いをしようと思ったクライアントのお願いが、特定の機能を実装するための依頼になってしまっては本当にもったいないですね。
妹島:個人美術館を作りたいとお願いされても、じゃあ、その美術館はこの街の中で何ができるのだろうかということを勝手に考えさせてもらって、だとしたら、これは位置付けが変わってくるなとか、こうしたほうがいいなとか、そういった構想を勝手に考えさせてもらったりしています。
使い手をエンパワーメントする場所
須賀:妹島さんの建築には、「使い手をエンパワーメントする、使う側に主体性を持たせる」という強い思いを感じます。戦後社会において“市民”は、受け身の消費者として位置付けられてきたことで、社会における影響力を失ってきた経緯があると思いますが、現在、シビックテックやオープンイノベーションなど、使い手となる市民が、提供されるシステムやサービスを使いやすくするために、自ら能動的に参加する動きがグローバルに加速しており、“市民”と呼ばれる人々の台頭が目覚ましいと感じています。
一方で、これらの手法は、自分たちでは管理しきれない人々を外部から呼び、それらの人々をエンゲージし続け、プロジェクトに関わり続けてもらわなくてはなりません。そのため、同時に運営コストが非常にかかる手法であるとも思うのですが、妹島さんは設計の仕方によっては、自然と人が関わっていけるような場所を作ることが可能だとおっしゃっています。
妹島:はい。そういったことを実現したいと思い、建築を続けていますが、金沢21世紀美術館での経験は本当に勉強になりました。あそこに行くと、いろんな人が集まって、その使われ方も多種多様に広がっています。人々が能動的に使おうとする施設というのは、機能が整っている便利な場所なのではなく、クリエーティビティーが刺激される場所なんだということに気づかされて、とても勇気をもらったんです。
人々がやりたいことがどんどん生まれてくる、あの場所はそういった空間になったと思います。使い手となる人も、できる限り自分の好きな使い方や方法を発見してほしいですね。そのためにいろいろなチャレンジを続けていきたいと思います。
(制作協力:黒鳥社)
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