須賀:日本には、世界的にも高い評価を受ける建築家が多くいる一方で、業界として捉えると、問題や課題が山積しているという見方をされる方もいらっしゃいます。妹島さんは海外でもさまざまなプロジェクトをご経験されてきたと思いますが、どのようなご意見をお持ちでしょうか?
妹島:私がよく覚えているのは、昔、イタリアの家具会社の社長さんとお話ししたときに、日本には世界的に見ても、すばらしいファッションデザイナーがたくさんいるのに、彼らに対するサポートがまったくダメだとハッキリ言われたことです。イタリアには、国としての技術の蓄積や手厚いサポートがあるからこそ、ビジネスとしても成長できるが、日本にはそれがないからもったいないと言っておられました。
一方で、個人的には建築をどこまでビジネスとして捉えるかということに関して、慎重であるべきだとも思っています。建築に携わる人をホワイトカラーの労働者のように扱い、決められた仕事時間を設けてみたとしても、制限時間の中で新しいアイデアを思いつくときもありますし、思いつかないこともあります。建築のような分野をどこまでビジネス的なものとして考えるべきなのかは、まだわかりません。
インタラクティブで、余地があり、調和がある
須賀:妹島さんのお仕事の数々を拝見させていただきましたが、大阪芸術大学の新校舎や西武池袋線の新型特急のデザインなど、従来の建築家の枠組みを超えた仕事ぶりに大変感銘を受けました。お仕事を引き受けられる際に、一貫した判断の軸といったものはお持ちでしょうか?
妹島:それほどはっきりした軸はなく、そのときの流れのようなものでやってきているように思います。西武池袋線の電車のプロジェクトに関しては、従来的な電車ではない、なにか新しいものを作りたいという西武の方のお話がとても印象的だったんです。電車の新しい型が作られるのも何十年に1回とかそういったスパンで行われることですから、自分にはどういったものが考えられるか、とにかくやってみようということで、お引き受けしたんです。
ただ、私はプロダクトデザインの訓練を受けているわけではないので、プロダクトとしての美しさやカッコよさ、つまり、先ほど言ったとおり、そのもの自体の美しさで“ビシッ”と完成形にいくのではなく、よりインタラクティブで、どこかに余地があるようなものを作ろうと思いました。電車だけがカッコいいのではなく、走る電車がその場所の景色に合わさって風景を作り、全体としてどのように新しい調和をとることができるのかという観点から考えました。
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