日本の「境界ない」建築が世界に求められる理由 妹島和世さんが語る「建築・デザイン」のこれから

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須賀:建築以外の領域でお仕事をされる場合、クライアントは建築以外のバックグラウンドの方が多くなると思います。その場合、お仕事の方法を変えることなどはありますか?

妹島:基本的には、どのプロジェクトでも最終的に使う人のことを考えながら進めるので、それほど大きな違いはありません。建築家の人の使う言葉が難しいと批判されたり、自分たちの経験から模型を作ることで理解してもらえると思っていても、パース(絵)のほうがわかりやすいとクライアントの方から言われたりと、所々でコミュニケーションにズレがあることもありますが、人のことを考えて作るということは一貫していると思います。

決められたフレームの中では「完成」しない

須賀:そこには、一貫したやり方があるんですね。今後、デザインや建築の分野が持つ可能性についても、ぜひご意見をお聞かせください。

妹島:そうですね。自分のキャリアを振り返ってみると、空間の内側と外側がつながっていったほうがいいなと、建築を始めた当初に思っていたことを、さまざまなプロジェクトを通してやり続けてきた30年間なんです。ただ、以前と変わったことと言えば、何か1つのものを単体で作り上げるというよりは、手がける対象が周辺の関係性を含めた領域にまで広がっていることだと思います。

新築を作る場合でも、その建物というのは、その街が積み重ねてきた文脈の上にありますし、その関係性から切り離すことはできません。プロジェクトの最初は、クライアントの方から「こういったことに困っています」「こういったことが必要です」と言われて作り始めるわけですが、個人的には、時間とともに当初とは違う目的にも使えてしまう余白や余地があったほうがいいと思いますし、使い手となる人々自身がさまざまな目的で、デベロップしていけるものを作りたいと思っています。

犬島の集落で、空き家をアートギャラリーに改修するプロジェクトを行ったときも、最初はただ、ギャラリーを作ってほしいとお願いをされたのですが、そのギャラリーを作りながらもっとこういうことをやったほうがいいんじゃないかという気持ちが湧いてきて、その周辺の環境も含めていろいろなことにトライし始めました。

以前であれば、最初に決められたフレームの中で物事を考えて、作ってプロジェクトの完成としていましたが、犬島での仕事を通じて、プロジェクトの過程で作る対象が広がっていくことを経験し、決められたフレームの中で完成とするやり方はどこか違うんだなと感じ始めました。

(撮影:間部百合)

須賀:アジャイル開発の設計思想は、実は妹島さんがおっしゃっている考え方に近いのかもしれません。プロダクトを一度作って納品したら終わりなのではなくて、使うことで出てくるバグに都度対処したり、新たに必要な機能があれば搭載したりと、文脈を踏まえて、全体のシステムとして作動するようにずっと作り続けるのがアジャイル開発の方法です。妹島さんには、デジタル空間のシステムのアーキテクチャーにもぜひ参加していただきたいと思いました。

妹島:お役に立てるかどうかわかりませんが(笑)。ただ、そうですよね。アーキテクチャーと言いますもんね。最初に聞いたとき、「ああ、なるほど、アーキテクチャーと言うんだ」と思ったんですよ。デジタルには少し苦手意識がありますが、建築の考え方というのは、物事を組み立てるときにとてもよく使えるものだと思っています。

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