アジアが台頭する世界で欧州が果たすべき役割--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授 グローバル・アイ 世界の視点

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 これら四つのシナリオにはどれも限界があるだろうが、今後どのような要因が国際状況を左右するのかを想像するには十分に役立つ。

今後の国際状況を考えるうえで一つ目に重要なのは、アジアの台頭である。中でも中国がどう変わるかは大きな問題だろう。中国は4億人を貧困から脱出させたが、今でも4億人は1日2ドル以下の収入で暮らしている。今後、共産主義が国家主義に取って代わることになれば、中国の外交政策はより攻撃的となり、気候変動のような問題にも消極的になる可能性がある。逆に中国がそうした諸問題への解決策の先頭に立ち、国際政治の舞台で”責任ある当事者”となる可能性もある。

二つ目に重要なのはイスラムの発展である。現在起こっているイスラム過激派によるテロは”文明の衝突”ではなく、イスラム社会の内戦といえる。過激な少数派が、イデオロギー的な宗教解釈によって多様な考えを持つイスラム社会に暴力を振るおうとしているのだ。

現在、中東は国際化と民主化で大きく後れを取っている。だがここでは、欧州の経済力とソフトパワーとが貢献できるはずだ。貿易の自由化、経済成長、教育振興、市民社会の発展……。欧州の諸施策は長期的にイスラム社会の規範となりうる。

三つ目の要因は米国のパワーである。米国が今後も世界の権力の中心であることに変わりはないだろう。しかしローマ時代以降、いくら最強の国家といえども自国市民さえ守ることができなかったケースは多い。米国も国際的な疫病や気候変化、テロ、国際犯罪といった脅威に、今後、自国だけでは十分に対応できないだろう。こうした諸問題の解決には、国際的な支援を引き出すソフトパワーが必要である。

欧州以外に今、米国の政策に影響を与えうる価値観や潜在力を秘めた国があるだろうか。世界の今後を左右する四つ目にして最大の要因は、何より欧州のパワーがどう発展していくかなのである。

ジョセフ・S・ナイ●1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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