丁寧でわかりやすい話し方は、すでに指導者そのものだったが、マウンドではずば抜けた投球をした。
トライアウトは50メートル走、遠投、ブルペンでの投球、打撃、守備、投打の対戦など一通り行われた。これをチームの関係者、外部から招かれた指導者、そしてトラッキングシステムの専門家などが一人一人評価していく。
築山社長も目に付いた選手に近寄って話しかけていた。巽真悟とはかなり深く話し込んでいた。築山社長も野球経験者だが、野球の技量を見るのではなく「社員として戦力になるかどうか」を経営者の目で見極めていたのだろう。
「幸い、うちはコロナ禍の影響は大きくありませんでした。むしろコロナ明けからは建築需要の高まりが見込めますので、人材確保が急務になります。
建築業界もAI化、自動化が進んでいますが、どれだけ技術が進んでも、とびなど建設現場の仕事は絶対になくなりません。野球選手を獲得することは、会社を担う人材を獲得することでもあるんです」(築山社長)
野球とビジネスの新たな関係
近年、野球選手を「一般社会の人材」とみなす動きが、顕著になってきている。NPBの合同トライアウトでは、球場の周囲に保険会社、建築会社、警備会社などの人事担当が会社のパンフレットを携えて詰めかける。プロ野球選手をビジネスの戦力と評価して確保しようとしていたのだ。
また独立リーグの一部の球団では、企業のスポンサードの見返りとして、引退した選手を人材として紹介するケースがでてきている。社会人野球の各チームは運営に四苦八苦しているが、日本晴れのようなスタイルで戦力化を図れば、野球、ビジネスのウィンウィンの新たな関係が成立するかもしれない。
ただしこのトレンドが顕著になれば、大学、高校以下の野球界は「指導」「教育」について見なおす必要があるだろう。筆者は自動車教習所の教官から「一番教えにくいのは高校球児だ。“わかったか?”と聞けば“はい”とでかい声を出すが、あとで聞いたら何もわかっていない。上から何か言われたら反射的に“はい”というしつけをされているだけなんだ」と聞いたことがある。
今も一部の指導者は「お前らは野球だけしてればいいんだ」と強圧的に野球をやらせている。こういう指導で育った選手は「人材」になるのは難しいだろう。今後の野球指導者は「自分は、野球を通じて世間に通じる『人材』を育成しているのだ」という自覚をもって選手を指導すべきだ。
「なかなかレベルが高いですよ。都市対抗でも通用する選手がいる」。トライアウトを見ていた野球指導者は話す。日本晴れ硬式野球部のチーム名は「Nbuy」。
Nihonbare Beautiful Unlimit Yourselfの略だ。「自身で限界を作らず挑戦し続けるすばらしい人材を育てる」というコンセプトを表現している。
同社の取り組みは、社会人野球の新たなあり方を提示している。コロナ禍の中で重苦しい新年が明けたが、明るい兆しだと感じられた。
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