日本人女性が韓国で自前のビルを持てた秘訣 在韓17年で資産70倍増、居酒屋店主の成功物語

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住居を兼ねた新しい居酒屋ビル「とんあり」は、ソウル都心の一等地・貞洞(チョンドン)にある。ソウル市庁前、日本人観光客もよく訪れる古宮・徳寿宮裏手の歴史的に由緒の深い地域だ。李朝、大韓帝国時代の韓国開化期には外交街で知られ、今でも周辺にはイギリスやロシア、カナダなどの各国大使館やアメリカ大使公邸がある。一時は、日本大使館の移転先候補にもなったほどの場所だ。そのカナダ大使館の斜め向かいの路地に、しゃれた赤レンガ造りの5階建ての「とんあり」が見える。

松本さんは2002年、45歳の時に1年間の語学留学を経験した。翌2003年に留学先の延世大学が近い学生街の新村(シンチョン)の路地裏に「とんあり」をオープンした。小さな5階建て雑居ビルの3階で、1階は焼肉屋、2階には韓国では珍しいレズビアンが集まるバーが入っていた。

屋号の「とんあり」とは、韓国語で大学の「サークル」や「仲間」といった意味で、それを日本語のひらがなで記して店先に掲げた。日本人の留学生をアルバイトで雇い、料理は「日本の家庭料理」と称して自分がつくった。

高額家賃でも店舗移転した決断が奏功

店は倉庫然としていたところを居酒屋に改装。家賃は保証金300万円と月額12万円だった。開店に際しては「日本と韓国の架け橋に……」などと意気込んでいたが、客の入りはいまいちだった。場所がビジネス街から外れていたために、主要客と見込んだ日本人駐在員が来ず、しかも料理の値段が学生相手には高かったためだ。

ソウルのど真ん中、日本人観光客もよく訪れる徳寿宮の裏手に位置する新築ビル(撮影・黒田勝弘)

「こら、あかん」と2年半で都心のビジネス街に移ることにした。この時、店の権利金が500万円で売れ、戻ってきた保証金と合わせて800万円が手元に残った。この「権利金」のシステムは韓国独特のもので、家主ではなく入居した店子に営業権のような権利金が生じる。店を手放す時、この権利金が高いと儲かるが安いと損をする。「とんあり」は入居の際は権利金はなかったが、改装して店舗にしたので権利金が生じ、松本さんは結局500万円を手にした。

2軒目は、李明博(イ・ミョンバク)元大統領がソウル市長時代に再開発を行ったソウルど真ん中・清渓川(チョンゲチョン)のほとりにある大型ビルの地下だった。保証金は2000万円、家賃は250万円と高かったが決断はよい方向に転び、ビジネス街で日本人駐在員が多かったこともあって、ひと月の売上高が700万円にもなる時があるほど大繁盛した。「とんあり」はこれで軌道に乗り、さらに都心で2号店、3号店まで持つようになった。

その後、ある時は古いビルを2億円で買って店にして、後にそれが3億円で売れたことがあった。またビル1階に店を開いたが、家主が倒産して追い出されそうになった時、競売にかかったのを安く買い取って自分の資産にしたこともあった。この店は、これもソウルど真ん中・ロッテホテル真向かいの一等地である。自分が住んでいた都心のマンションも、7000万円で購入した2年後には倍の1億4000万円で売れた。不動産で資産を増やしていくことが多い、韓国ならではの財テクが成功した。

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