香代にとってはゴミに見えるものでも、雅也にとっては思い出が詰まった宝ものだったのだ。
さらに、一緒に生活を始めてみると、毎日のように通販で買った品物が届いた。それは、限定品のフィギュアだったり、タイムセールで買った服だったり小物だったりするのだが、品物だけでなく段ボールも捨てずにとっておくので、片付けたはずの部屋がたちまち物であふれ返っていった。
また一緒に生活してわかったことだが、雅也は自分のためにはお金を使うのだが、人のためにはお金を使おうとしなかった。
「生活費は、きれいに折半でした。結婚前は、外で食事をすると私の分も支払ってくれたのに、結婚してからは自分の分しか出さなくなりました。あるとき、2人で牛丼チェーン店に行ったら、自分の食券だけ買ってさっさと席に座り、それを店の人に出していました。
妻に350円の牛丼もごちそうできないのかと思ったので、『結婚前は、ごちそうしてくれたのにね』と嫌みっぽく言ったら、『ああ、仲人さんに婚活中は出すように言われていたから』と。それを聞いて心底あきれました」
聞くに堪えかねるような悪口を言う夫
もう1つ結婚してわかった嫌な面があった。家でテレビを見ているときに、出演者をこきおろすのだ。
「〇〇も昔は、キャーキャー言われていた二枚目俳優だったけど、フケたよな〜。おでこがかなり後退しちゃって、もうじーさんだな」
「ブヨブヨの裸をさらして、粉だらけになって金稼ぐお笑いタレントって、プライドがないのかね」
「国会議員が不倫? ふざけんな! この税金ドロボーが」
付き合っているときには、こんなふうに人を悪く言うような一面はなかったので、本当に意外だった。あるとき、聞くに堪えかねて香代が言った。
「どうしてそんなにテレビに出ている人たちを悪く言うの?」
すると、雅也は平然とした顔で言った。
「相手に聞こえているわけじゃないから、何言ったっていいじゃない。ネットに匿名で誹謗中傷を書いたりするのは悪質だと思うけど、自分ちでテレビに向かって言っても、誰に何の迷惑もかけてないだろう?」
「そばで聞いている私は、いい気持ちがしないよ」
「じゃあ、聞かなければいいじゃない」
「一緒にいたら、聞こえちゃうでしょ」
こんな会話をしているうちに、本当に虚しくなってきた、と言う。
子どもが欲しかったから、結婚を急いだ。しかし、子どもを作るためにはその行為をしなくてはならない。一緒に暮らすようになってから日に日に雅也に嫌悪感を覚え、一緒のベッドにも寝たくなくなり、夫婦関係はどんどん冷めていった。
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