「もっと優秀なメンバーがいれば……」と嘆くよりも
会社員の仕事は、基本的にはチーム作業だ。しかし共に働くスタッフを自由に選ぶことはなかなかできない。役職や立場が上がるにつれて人事に関する発言権もある程度高まるが、選択肢は限られている。「もっと優秀なメンバーがいれば……」と、自身のチームの人材難を嘆いている人も少なくないだろう。
僕もプロデューサーとしてスタッフ陣を率いる立場。当然、高い資質を持った人材に加わってほしいとは思う。しかし、事前にあまり注文はつけず、割り振られたスタッフをまずは受け入れることにしている。
この考えに至ったのは、「世界レベルの中小企業」という企画で、愛知県豊橋市の樹研工業を取材したことがきっかけだった。2002年当時、樹研工業は直径0.149ミリメートル、重さ100万分の1グラムという世界最小、最軽量のプラスチック製歯車を開発し、世界的に注目を集めていた。
松浦元男社長にお話を伺って驚いたのが、同社の新入社員の採用方針だった。それはなんと「先着順」。能力や経歴は不問、単に応募が早かった順に内定を出しているというのだ。なぜかというと答えは簡単、「誰にでもよい部分はあるから」だという。
たとえば高校を2回も留年して入社した社員については「ダブった分、同級生が多いだろ? 人脈があるってことだよ」と笑っていた。
要するに学歴などの情報やちょっとした面接でわかることなど、たかが知れているということなのだろう。わかりもしない将来性をあれこれ考えるより、個人と向き合う覚悟を決め、ある程度、時間をかけてそれぞれの強みを見いだしていく。そのほうが結局は効率がよいのではないか。
当初は半信半疑だったが、自分自身がチームを率いる経験を重ねるうちに、確かにそうかもしれないと思うようになった。特にその思いが強くなったのは、以前放送していた「麻木久仁子のニッポン政策研究所」という番組で、アシスタントディレクター(AD)を務めたH君の成長ぶりを目の当たりにしてからだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら