iPadで出版はどう変わるか--救世主か、あるいは…
毎年恒例のアカデミー賞授賞式が行われるハリウッドのコダック・シアター。3月7日、アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)は、いつものジーパンと黒いタートルネック姿ではなく、蝶ネクタイにタキシードの正装で登場した。
ジョージ・クルーニー、サンドラ・ブロックら著名俳優やジェームズ・キャメロン監督らの間をほほ笑みながら歩くジョブズ氏。肝臓移植から復帰したばかりで体調万全とはいえないジョブズ氏はなぜ、アカデミー受賞式に、前触れもなく登場したのだろうか。
もちろん、参加資格は十分。何しろ2006年、自身が育て上げたコンピュータCGのアニメーション映画スタジオ「ピクサー」をディズニーに売却し、ジョブズ氏はディズニーの筆頭株主である。
しかし、ジョブズ氏が姿を現したのは、ピクサー製作映画がノミネートされたからではない。4月3日、新たにアップルが発売するiPad(アイパッド)のプロモーションのためである(日本での発売は4月末)。
アップルはこの場で、iPadのテレビCMを初めて披露した。新デバイスへの新作映画の提供を約束させるためにも、映画スタジオの重役が勢ぞろいするアカデミー賞受賞式は重要な意味を持っていた。
アップルは01年に発売した携帯デジタル音楽プレーヤーのiPod(アイポッド)シリーズにより、音楽の流通に大きな影響を与えた。
アイチューンズミュージックストア(iTMS)からの楽曲のダウンロード販売は、すでに累計100億曲以上。iPodが音楽流通に大きな影響を与えたように、今度はiPadによって、映画や出版物など大画面液晶に適したコンテンツの流通を変えようとしている。
「デジタル版」に向け舵を切る米国の出版界
アップルによると、米国のiPadユーザーは4月3日の発売と同時に、iTMSを通じ、1200万曲以上の楽曲、5万5000本以上のテレビ番組に加え、8500本以上の映画(うち2500本以上が高精細映像)へのアクセスが可能だ。