微妙な上下関係や待遇の違う役職が用意され、それによって、レジェンド級の研究者たちが実はかなりモチベートされている。世界で最も競争的なアメリカのトップスクールと、古くからの日本企業の意外な共通点です。
小島:日本でも、例えば東京大学には「特別教授」という2〜3年前にできたばかりの制度があって、経済学分野では神取道宏さんがこのポジションに就いています。まだ、大学全体で4〜5人くらいのようだけど、日本国内の大学も、競争社会的な取り組みに力を入れていこうとしている印象がありますね。
安田:東大の特別教授は定年も通常とは違う75歳と、本当に特別なポジションです。
小島: 日本の大学では通常65歳定年ですが、これはちょっと早すぎるということなのかもしれません。
大学の先生が会社経営やコンサルティング
安田:アメリカの大学の特徴でいうと、とくに経済学部の先生や、ウィルソンのようなビジネススクールの先生は、大学の外で会社を経営したり、コンサルティングをしたり、政府の仕事をしたりしていることが多い。
日本と比べて、こうした学外の仕事に対して教授陣がアクティブで、大学側も宣伝にもなるという認識で受け入れている。論文を書く代わりに学外の仕事をする人が多いし、そういったマーケット……というと言いすぎかもしれないけれど、経済学の専門家が働けるポジションが大学の外に豊富ですね。
小島:日本の現状はどうなんでしょうか。
安田:日本では学外の仕事といっても非常勤が多いですね。例えば、大学にいながら政府の審議会に参加するとか、ちょこっと企業のアドバイスをするとか。自分で起業したり、しっかりと組織に入って、例えば独禁法関係の仕事を公正取引委員会でやるということはほとんどない。あったとしても、数がすごく限られている。
僕が留学していたプリンストン大学にはビジネスエコノミクスの世界で有名な教授がいましたが、若い時に競争的な市場に関する有名な論文を書いた後は、コンサルタントとして、ひたすらビジネス寄りの仕事をやっていた。クラスメートから、彼の自宅が超豪邸だったという話を聞きました。アメリカにはそういうタイプの先生が結構いるんですよね 。
今年、僕がEconomics Design Inc.の創業に加わったのも、日本であまり進んでこなかった、大学と実務・ビジネスをつなぐ人材をもっと増やしたい、自分でも何かアクションを起こしてみたい、という動機があったからです。豪邸に住むことが目的ではないですよ。もちろん、それくらい仕事の依頼があればうれしいですけど(笑)。
小島:ミルグロムもオークション関連の会社を自らつくっていますしね。アメリカ政府の仕事を請け負う時には、クリアしなきゃいけない条件──男女比率とか従業員のマイノリティー比率とか──がたくさんあるので、それに対応する方法を考えたりするのだと思います。
安田:関連する話で言うと、周波数オークションでも、CEOが女性や少数民族だと少し優遇が受けられる周波数免許があったりします。アメリカでは、マイノリティーが優遇される、アファーマティブアクションが入った周波数オークションを実際にやっているんですね。(第3回に続く)
【2020年12月25日18時40分追記】初出時、記事中に「法務省」と記載した箇所がありましたが、「公正取引委員会」と修正しました。
(構成:山本舞衣)
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