ただ、周りのよくできる研究者というのが、ちょっと前にノーベル賞を受賞したロジャー・マイヤーソン(2007年受賞)やベント・ホルムストローム(2016年受賞)だったりして、これは全然参考にならないな、とは思ったんですけどね。
安田:小島さんへのリップサービスが含まれた発言かもしれないから少し割り引くとしても、若き日のミルグロムがそれだけのプレッシャーを感じていたとは。僕らは彼のすごい姿しか知らないし、ノーベル賞受賞時の写真なんかでも、いかにも自信満々の強そうな雰囲気があるじゃないですか。意外な一面です。
小島:彼は、圧倒的な実績があると同時につねにガツガツしているというか。いつまで若くいられるか、いつまで勝負してやれるか、という感じで、凄みがあります。
安田:アメリカの大学では、プロフェッサー(教授)の中にもランクがあって、例えば、MIT(マサチューセッツ工科大学)のダロン・アセモグルは「大学全体の」という意味合いのあるInstitute Professor。日本では、「特別教授」と訳されたりします。
小島:同じようなポジションに、University Professor というのもあります。通常とは待遇も違っていて、例えばハーバード大学の場合は、授業をやりたくなければ一切やらなくていいし、逆にやりたければ好きなことを勝手にやっていい。
典型的には、ノーベル賞を受賞した人や受賞しそうな人が就いています。経済学分野では、2007年にノーベル経済学賞を受賞したエリック・マスキンがそうだった。
「終身在職権」取得以降も厳しい競争が続く
安田:アメリカではテニュア、終身在職権を早いうちにとるとその後サボっちゃう、なんて揶揄されることもある。一方で、すばらしい業績を上げた偉い教授でさえも、細かなタイトル、プロフェッサーとしてのランクを気にする人が思いのほか多いというのは聞きますね。
小島さんは、スタンフォードでテニュアを獲得した後、日本に帰ってきたわけですが、アメリカでの雰囲気はどんな感じでしたか。
小島:ポジションにいろいろな条件付けをしていく文化はありましたね。僕は2020年の秋にスタンフォードから東大に移ったけれど、アメリカの大学も含めて転職活動をしていたので、そういった話は出てきました。
例えばある大学でDistinguished Professor 日本でいう特別教授のようなポジションを提示されたことがあります。その役職は、ほかよりお給料がちょっと高いらしい。
安田:アメリカと日本とでは組織の構造が違うように思えるのだけど、やっていることは日本企業でいう課長か部長か専務かといった出世競争に近い。プロフェッサーの地位を獲得して以降の戦いは、部長職以上の管理職の戦いといったところでしょうか。