ネットで「過激な発言」ばかり目に入る根本理由 中庸な人が発言をやめてしまう特殊な言論空間

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しかも、この特徴はもう1つ、さらにネットで「極端な人」ばかりが元気になる現象を生み出す。それは、中庸的で強い心を持っていない人は、ネットの言論空間から退出してしまうということである。

もしかしたらあなたも、ネット上で政治的な話題や、宗教やジェンダーの話題、あるいはファンの多い芸能人の話題などは、ある程度避けるようにしているかもしれない。なぜ避けるか。その理由の1つに、他人からの批判や心無い誹謗中傷が怖い・揉めるのが怖い、といったことはないだろうか。

そう、センシティブな話題ほど、ネットで発信をするとどこからともなく「極端な人」が現れ、攻撃を仕掛けてくるかもしれないのだ。だったら、発信しないで平穏に暮らしていた方がいい。こうやって、中庸的な意見の人ほどネットでの「極端な人」による攻撃が怖くて、言論空間から撤退していく。

「極端な人」と中庸な人の差

しかし、「極端な人」はそうではない。自分の意見に確固たる自信があるし、相手を攻撃するのに迷いがない。もし反論されようと、「お前は何も分かっていない」「そんなことを言うなんて売国奴に違いない」などと取り合わず、上から意見をかぶせるだけである。何を言われてもくじけない強い人たちだ。

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その結果何が起こるか。「極端な人」は多く発信を続け、それは留まることを知らない。その一方で、中庸な人はもともと発信のインセンティブが弱いうえ、「極端な人」が怖くて発信をやめてしまう。

そうすると、社会に大多数いるであろう中庸な人――他人の意見に耳を傾けられる人・ある物事や人について弱く支持している人・ある物事や人について不快に感じたり反対に思ったりしたが直接攻撃しようとまでは思わない人など――は、ネットの言論空間にはほとんどいなくなってしまい、代わって少数であるはずの極端な意見の持ち主が、ネットのマジョリティを占めるようになる。

これを図にするとこのようになる。横軸は意見の違いを表しており、左に行くほど反対・不支持であり、右に行くほど賛成・支持である。つまり、真ん中は中庸的な意見で、両端は極端な意見となっている。また、縦軸は人数を表している。

一般的に、極端な意見の人より中庸の意見の人が多いので、社会における意見の分布は中央に集まる形になり、破線の分布がそれを表している。つまり、社会の意見分布はたいていの場合山型を形成する。

しかし、ネットではこうならない。①「極端な人」ほど発信する。②中庸な人ほど「極端な人」を恐れネットで発信しない。という2つの特徴から、ネットでは実線の谷型の意見分布となるのである。この谷型の意見分布こそが、今我々がまさに目の当たりにしており、「ネットは怖いところだ」と思っている言論空間そのものなのである。

山口 真一 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授

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やまぐち しんいち / Shinichi Yamaguchi

1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学、ネットメディア論、情報経済論等。NHKや日本経済新聞などのメディアにも多数出演・掲載。主な著作に『ソーシャルメディア解体全書』(勁草書房)、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)等がある。KDDI Foundation Award貢献賞等を受賞。他に、東京大学客員連携研究員、早稲田大学ビジネススクール兼任講師、シエンプレ株式会社顧問、株式会社エコノミクスデザインシニアエコノミスト、総務省・厚労省の有識者会議委員等を務める。

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