コロナ禍でもウォルマートが強みを見せた理由 新宅配サービスを即発表したアジャイル型組織

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②マインドセットとスキルセットの変革

第2の課題は、人材に求められるマインドセットやスキルセットの変革である。日本企業の組織文化として、新たな取り組みよりも既存プロセスの維持が重視され、チャレンジよりも失敗を回避しようとする傾向が強い。しかし、アジャイル型組織の活動は、失敗を恐れていては前に進めない。とくに不確実な状況下での失敗は、早い段階でわかるほうが次の手段を立てやすい。

従来型のアプローチと異なり、取り扱うテーマによって必要なスキルは大きく変わる。失敗を恐れずに挑戦する意欲を持ち、スキルを継続的に習得してスキルセットを構築していく人材が求められる。マインドセットやスキルセットの変革に対しては、人材育成の仕組みを整備する。導入研修や専門人材に向けた実践型研修などの整備が不可欠である。

また、アジャイル型組織で活躍することが個人のキャリア形成にどのように寄与するのかを具体的に説明することで、組織内からモチベーションの高い人材を集めてくることができるだろう。

アジャイル型組織の成果を早急に示す

③成果の実現

第3の課題は、アジャイル型組織による成果を示すことである。既存組織を変革していく過程では、社内に必ず抵抗勢力が生まれる。その勢力に対してアジャイル型組織の有用性を実証する必要がある。

このとき、時間がかかると、「アジャイル型組織はやはり当社に合わない」という声が強くなり、変革が止まってしまう。必要な予算を確保し、前向きな人材を獲得・育成・配置するためにも、目に見える成果を早急に出すことが重要である。

成果を早急に実現するには、アジャイル型組織がスピード感をもって活動できるプロセスや環境の整備が重要である。例えば、既存のセキュリティーポリシーや承認プロセスが、すばやい活動を阻害しているならばそれらを変更する。また、短期間で成果を出すことが求められる場合、外部人材の獲得プロセスを変更し、アジャイル型組織の成果に実績があり、熟知した人材を雇用することも有効である。

以上の変革は一過性ではなく、数年かけて実行していく。変革は、既存の組織の仕組みや考え方とは大きく異なるため決して平坦な道ではない。しかし、コロナ禍による先行き不透明な状況下だからこそ、それに対応できるアジャイル型組織の重要性はますます高まる。

アジャイル型組織に変革できるかどうかは、これからのニューノーマルの環境において業績を伸ばす企業とそうでない企業の分水嶺となるであろう。

手塚 洋平 野村総合研究所 上級コンサルタント

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てづか ようへい / Yohei Tezuka

野村総合研究所 ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 上級コンサルタント。専門は製造・小売・インフラ分野におけるグローバル戦略、AI/ロボティクス等の技術戦略、アジャイル変革支援。

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