「田舎嫌いだった男」が地元輪島愛に目覚めた訳 10代目塗師屋として29歳が目指す伝統工芸継承

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コロナによる休業・自粛要請を受け、全国出張も控えざるをえない。百貨店の催事は軒並み中止となり、輪島塗の主力購買層である60、70代の顧客たちも外出を避ける。5〜6月の売り上げは、前年同月比50%減に落ち込んだ。

年間で200日以上を海外・国内の出張先で過ごす生活から一転、外出自粛を余儀なくされる毎日に閉塞感が募っていく。

国の重要無形文化財 輪島塗「椿皿」(写真:田谷漆器店)

蔵に積みあげられた在庫を眺めるうちに、自分たちで何かできることはないかと考えはじめた。そこで、「自宅にこもるストレス軽減に、輪島塗を役立ててもらえたら」とオンラインでの輪島塗レンタルサービスを思いつく。

「今は家庭で漆器を扱う機会が減っているので、輪島塗のメリット・デメリットを理解していただくためにも、体験を提供したいと思ったんです。買ってくださいと最初から購入を勧めるのではなく、まずはお客さまに漆器と親しんでいただかないと」と昂大さんは説明する。

クラウドファンディングもレンタルサービスも大きな売り上げとはいえないが、「多くの方に漆器を使っていただく取り組みは、将来への投資」と昂大さんは話す。

「最終的には、輪島塗のユーザーや愛好者が増えれば投資回収といえますね。即効性はないと思います。でも伝統工芸とは本来、地道なものですし」

伝統工芸を次世代へ残す責任

「令和元年版 輪島市統計書」によると、輪島塗の生産額は1991年の年間180億円をピークに年々減り続け、2018年は38億円まで落ち込んだ。コロナ禍で2020年は2018年以上の落ち込みが予想される。

職人の数も1990年の2893人を最大に、2018年には1331人まで減少。担い手の高齢化は止まらない。輪島塗は100以上の工程を踏み、職人の完全分業制で作られ、器の完成までには半年から数年の期間を要する。現時点では先シーズンの売り上げや、県や市からの補助金や前倒し発注のおかげでしのげているが、コロナが収束しなければ、60〜70代の職人の中には廃業を迫られる人が現れる可能性もある。

「(バブル崩壊やリーマンショックより)今がいちばん苦しい」(輪島塗関係者)。予断を許さない状況にあって昂大さんは次のようにいう。

「大量生産・大量消費から、自然環境と調和し、人に優しい輪島塗の在り方へ、時代は戻っているのではないでしょうか。昔ながらの技法を守りながらも、発信力を生かした販売をすれば、輪島塗は生き残れる。伝統工芸をビジネスとして次世代へ継承していく責任が、僕たちにはあると考えています」

若き塗師屋の挑戦は、始まったばかりだ。

澤 あきこ ライター・インタビュワー

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さわ あきこ

1968年富山県生まれ。石川県金沢市在住。大学卒業後、同和火災海上保険株式会社(現あいおいニッセイ同和損保)へ就職。インテリア講師、子ども英会話講師を経て2015年からフリーランスとして活動。書籍や雑誌、WEBでインタビュー記事を執筆する。興味のあるテーマは「伝統工芸」「アート」「地方」「人生二毛作」など。

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