「田舎嫌いだった男」が地元輪島愛に目覚めた訳 10代目塗師屋として29歳が目指す伝統工芸継承

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「人手が足りないから」と東京で開かれる展示会に売り子として駆り出されるようになり、昂大さんの輪島塗に対する愛着は深まっていく。「自宅で見慣れた製品が、お客さまから尊敬を込めた眼差しで迎えられ、ご購入いただけるのは予想外でした。外に出たからこそ、輪島塗の魅力を知ることができたんです」(昂大さん)。

80代で現役の職人として働く田谷家8代目の田谷勤さん(写真:田谷漆器店)

江戸時代に確立した技法を守り、輪島塗は現在も天然素材を用い、職人による手仕事で作られている。幼少時から身近に触れ、心からいいと信じる商品を、販売してお金をいただく嬉しさは格別だった。

大学卒業後、一旦は企業に就職したものの、昂大さんは自分で商売をやりたいという夢に従う。都会暮らしを経て再発見した輪島塗の魅力を広めようと、2016年に25歳で輪島へ戻った。

輪島塗だけでなく塗装技術売り込みへ

「伝統工芸って、こんなに儲からないんだ」

父母より経営状態を聞いてはいたが、実際に帳簿を確認し昂大さんは愕然とした。入社当時、店では百貨店の催事や外商とまわる個人宅の対面販売をメインで行っており、商品が売れるかどうかは百貨店のタイミング次第。予算の組みようもなかった。

売り上げ見込みを立てられる販売の必要性を痛感した昂大さんは、一定のオーダーを確保するため、法人向けの販促ルート開拓を試みる。輪島塗に加えて、漆の塗装技術を売り込もうと発想を切り替えた。

耐久、耐水、断熱、防腐性に優れた塗料としての漆のポテンシャルを武器に、ゴムや金属加工品を製造するメーカーに交じり、ビジネスマッチングや商談会へ顔を出した。そこでの出会いが中国企業との取引、国内企業とのODM・OEM生産の受注へ結びついた。今や法人部門の売上は、売り上げ総額の6割を占めるまでになっている。

取引先を法人中心へ移行させる傍ら、「能登半島の北に位置し、アクセスに不便な輪島の地理的条件のハンデをなくしたい」と、インターネットを使った直接販売チャネルの強化も図った。2019年には自社オンラインストアと、ホームページを一新。売り上げは年商の1割にも満たないまでも、新規客の流入に手ごたえを掴みかけた。その矢先に、コロナが全国を直撃する。

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