「施設か路上」の2択迫られた42歳男性の絶望 生活保護申請後の宿泊場所探しは「自己責任」?

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そこにきてコロナウイルスの感染拡大である。これにより仕事自体が激減。4月以降は、毎月の稼ぎが10万円を切るようになった。夏に入るころには、悪天候の日やお金がある日はネットカフェを利用し、それ以外は路上で生活をするようになったという。

タツヤさんは路上生活について「まさか自分がホームレスになるとは思ってもみませんでした」と振り返り、こう続けた。

「(路上では)長年ホームレスをしている人たちと知り会いなりました。彼らは僕に水道が使える公園を教えてくれて、僕はお返しに現場でもらった『塩タブレット』をあげました。熱中症予防になるから。路上はつらかったけど、役所の冷たさに比べたら、彼らのほうがよほど温かかった」

コロナ禍で「報酬が未払い」

その後、さらにタツヤさんに追い打ちをかけたのは報酬の未払いだった。コロナ禍が深刻化するなか、「うちも資金繰りに困っている」などの理由で、支払いが滞る現場が増えたという。「そのうちに連絡が取れなくなって、とんずらされるという繰り返し。今も(報酬総額の)6割くらいが未払いのままです」とタツヤさん。

建設現場において一人親方といえば聞こえはいいが、多くは一般の作業員だ。会社は社会保障費の負担もなく、いつでもクビにできる一人親方を個人事業主として利用しがちだが、法律的には、指揮監督下にある作業員を個人事業主扱いすることは許されない。

こうした「名ばかり一人親方」が搾取される構造を、業界関係者であれば知らない人はいないはずだ。タツヤさんは業界の悪弊の典型的な犠牲者であり、「現場には僕と同じ目に遭った作業員が大勢いました」と訴える。

困窮度合いが増す中、手持ちの降圧剤もなくなり、寒さと高血圧のせいで夜も眠れなくなり、タツヤさんがようやく頼ったのが貧困問題に取り組む市民団体だった。

今回のコロナ禍では、「反貧困ネットワーク」や「つくろい東京ファンド」「TENOHASI」「自立生活サポートセンター・もやい」といったさまざまな市民団体やNPO法人が食料配布や緊急のSOS対応、生活保護申請の同行、アパート探しの支援などに奔走している。こうした取り組みを「自助」「共助」といった美名で語って終わらせてよいのだろうかと私は思う。「公助」はどこにいったのか、という話である。

タツヤさんは今も生活保護を利用しながら、ホテルでの生活を続けている。賃貸アパートへの転居のメドも立っていない。「年末になるとホテル代が高くなります。いつまでここにいられるのか……」と不安を隠さない。

東日本大震災の後も全国各地の水害や地震の現場を飛び回り、復旧の最前線に立ってきたタツヤさん。いつか再び施設入居か、路上生活を選べと迫られる日が来るのだろうか。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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