「施設か路上」の2択迫られた42歳男性の絶望 生活保護申請後の宿泊場所探しは「自己責任」?

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この時点で、タツヤさんの生活保護申請はまだ受理されてはいなかった。いずれにしても、これでは都と区役所の責任の押し付け合いではないか。タツヤさんの所持金はほとんどゼロ。服薬しなければならない降圧剤も半月間ほど飲めておらず、血圧は170前後という状態が続いていた。数日前に会ったときと比べても顔がむくんでいるのがわかった。

「血圧を測った紙を見せて体調が悪いということも伝えました。でも、都の担当者からも、区役所の担当者からも『公園とか、路上とかに戻ってもらうしか……』と言われました。この人たち、鬼かと思いました。また路上生活かと思うと、もう死にたいです」

足元のビニール製バッグ2つが〝全財産〟だという(筆者撮影)

不安そうなタツヤさんを前に取材どころではなくなった。まずはその日の宿泊場所を確保しなければ──。

タツヤさんと私はネットや電話を使い、ホテル探しに奔走。生活保護を利用することを考えると、1泊当たりの費用は保護費の範囲に収まるよう1800円以内に抑えたいところだ。ネットを検索するうちに、ネットカフェよりもGoToトラベルを利用したホテルのほうが安いことがわかってくる。でも、タツヤさんの体調を考えると、相部屋のゲストハウスなどは避けたい。場所は、区役所までの電車移動ができるだけ短い所がいいだろう──。

すったもんだの末、GoToトラベルと地域共通クーポン券を組み合わせ、なんとか予算内に収まるホテルを確保。チェックインを済ませたときには夕方近くなっていた。安堵の表情を見せるタツヤさんと裏腹に、私はじわじわと怒りが込み上げてきた。

なぜ、都や区役所は、お金も仕事も住まいも失い、助けを求めてきた人に向かって「路上」や「公園」などという言葉を使うのか。

タツヤさんが自らホテルを探すことになった経緯についてもう少し説明したい。

アパートでの保護が原則のはずなのに…

実はタツヤさんは当初、貧困問題に取り組むある市民団体に助けを求めた。これを受け、市民団体の関係者が生活保護申請に同行。決まった住居を持たないタツヤさんが無料低額宿泊所(無低)などの施設に安易に入居させられることを防ぐためだ。

無低とは、社会福祉法に基づく民間の入居施設。良心的な施設もある一方、劣悪な住環境や粗末な食事にもかかわらず、高額な利用料を設定し、生活保護費のほとんどを搾取するところもある。一部の自治体では生活保護を申請した人をこうした施設に送り込む手法が常態化。無低による貧困ビジネスを長年にわたって野放しにしてきた。

次ページ区側の譲渡を引き出すことはできたが…
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