あと50年で「平均寿命」が33年も延びる理由 健康長寿を可能にする科学とテクノロジー

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しかし、そういう存在がこの世に登場する頃には、私たちは往々にして出口のかなり手前まで行っている。しょせん、その子の未来のために自分にたいしたことができるとは思えない。

私はこれを変えたい――ほかの何にも増して。自分の孫はもちろん、その子どもにも孫にも間違いなく会うのだと、すべての人が思えるようにしたい。いくつもの世代が共に暮らし、共に働き、共に決断を下す。私たちは今の生に対して責任を負うのだ。

なぜなら、過去に下した決断が未来に影響を与えていくからである。私たちには、家族の、友人の、そして隣人の目をまっすぐに見て、彼らが生を享(う)ける前に自分たちがどう生きてきたかを説明する務めがある。

よりよい未来を築くという責任

老化が治療されて必然的に健康寿命が延びたとき、それこそが何より世界を大きく変える力になるはずだ。私たちは、先送りにしている問題と否応なく向き合わざるをえなくなる。今現在だけでなく、100年後の人類のためになる研究に投資し、200年後の地球の生態系と気候を心配するのだ。

そして寿命が長くなった結果として、富める者だけがますますぜいたくな暮らしを謳歌し、中流階級が貧困へと転がり始めることのないように、対策も講じなくてはならない。新しい指導者が、公正かつ合法的に古い指導者と入れ替われる仕組みもつくる必要がある。

私たちが消費して廃棄するものの量と、世界が耐えうる量とのバランスもとる。それも、今だけでなくこれから何世紀にもわたって。簡単なことではない。とてつもない挑戦だ。政治があえて触らずにいる問題(社会保障)に触れるだけでなく、水をかぶってからその高圧電線の上に寝そべろうというのだ。

さらには仕事や定年退職について、あるいは誰がいつ何を受け取るべきかについて、これまでの期待を改めていかなくてもいけない。偏見の目を向けてくる人間がいても、以前ならそいつが死ぬのを待てばよかった。でも、もうそうはいかなくなる。これからは正面から向き合って相手の心を解きほぐし、考えを変えてもらう努力をするしかない。

また、人新世(人間の活動が自然界に大きな影響を及ぼすようになった今の地質時代)には、生物の絶滅が自然状態の数千倍のペースで進行している。だが、それもこれ以上見過ごすわけにはいかない。絶滅のペースを著しく遅らせ、できれば完全に止めるのだ。

次の世紀を築くには、皆がどこに住み、どのように暮らし、どういった規則のもとに生きていくかも考えなくてはいけない。健康寿命が延びれば、社会や経済は大きな利益を受け取ることになる。それが必ず賢く使われるような、仕組みづくりも求められるだろう。

今以上に共感と思いやりの心をもち、人を許し、より公正になる。友よ、私たちはもっと人間らしくならねばならないのだ。

(翻訳:梶山あゆみ)

デビッド・A・シンクレア ハーバード大学医学大学院教授

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David A. Sinclair

世界的に有名な科学者、起業家。老化の原因と若返りの方法に関する研究で知られる。ハーバード大学医学大学院で、遺伝学の教授として終身在職権を得ており、同大学院のブラヴァトニク研究所に所属している。ほかにも、ハーバード大学ポール・F・グレン老化生物学研究センターの共同所長、ニューサウスウェールズ大学の兼任教授および老化研究室責任者、ならびにシドニー大学名誉教授を務める。『タイム』誌による「世界で最も影響力のある100人」の1人に選出され(2014年)、「医療におけるトップ50人」の1人にも選出されている(2018年)。(写真:アフロ)

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マシュー・D・ラプラント ジャーナリスト、作家

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Matthew D. LaPlante

ユタ州立大学で報道記事ライティングを専門とする準教授。ジャーナリスト、ラジオ番組司会者、作家、共著者としても活躍。

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