あと50年で「平均寿命」が33年も延びる理由 健康長寿を可能にする科学とテクノロジー
「平均」というからには、人口の半分はその数字を上回ることを意味する。確かに、さまざまな科学技術の進歩がすべて足し算になるとは限らないし、食事に気をつけて運動する人ばかりでもないだろう。
しかし、忘れないでほしいのだが、私たちが長く生きれば生きるほど、まだ予見できない医療の画期的な進歩の恩恵を受ける確率は高まる。
しかも、すでに成し遂げられた進歩が消えるわけではない。だからこそ、『スター・トレック』の世界がどんどん近づくにつれて、私たちが1カ月生きるごとに寿命が1週間延びるのだ。今から40年もすれば、それが2週間になっていてもおかしくない。
80年たったら3週間だ。今世紀が幕を閉じる頃には、なんとも面白いことになっていそうだ。1カ月間死なずにいるだけで、新たな寿命が4週間つけ足されるのである。
未来の数字への心の準備
人類で最も長く生きたとされるジャンヌ・カルマンも、いずれは史上最高齢のトップ10から外れるだろう。それは、こうした理由があるからだ。さらにはその後20年もしないうちに、トップ100のリストからも滑り落ちるに違いない。そのあとはトップ100万にすら入らなくなる。
かつて110歳を超えるまで生涯を送った人たちが、こうした科学技術の恩恵をすべて受けることができていたらどうなっただろうか。120歳や130歳にまで達していた? その可能性はある。
人前でそういうのんきな数字を語るのはいかがなものかと、私はよくほかの科学者からたしなめられる。「よしたほうがいいよ」。最近も研究仲間の1人が善意からそう忠告してくれた。
「どうして?」「だって、世間はまだそういう数字に心の準備ができていないからね」
私はそうは思わない。10年前の私は、医療を改革して患者のためになるものにしようと話しただけで、同業者の間で浮いた存在になっていた。
ある科学者などはこう返したものである。研究者としての私たちの本分は「ただ何かの分子がマウスの寿命を延ばすことを示すだけでいい。それを受けてどうするかは市民が決めてくれるだろう」と。本当にそうならどんなにいいか。
今では、同じ分野の大勢の研究者が、私と同じくらい未来に明るい見通しを抱いている。表立って認めていないとしても、心の内ではそうなのだ。3人に1人くらいは、NAD増強分子かメトホルミンを間違いなく飲んでいるし、少量のラパマイシンを断続的に服用している者だって何人かはいる。