不妊治療の保険適用で浮かび上がる「根本問題」 日本の不妊治療にはまだまだ課題がある

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遺伝子異常による精子機能異常の場合には、治療を断念せざるをえないケースもある。精子機能異常が診断されないままに不妊治療を繰り返しても無駄ということだ。現在、顕微授精という技術が男性不妊治療の主流になっているが、遺伝子異常による精子異常が多い男性不妊に対しては、“顕微授精が万能ではない”という事実を認識しなくてはならないという。

法整備も含めてガイドラインの確立が必須

「命を生み出す不妊治療では、何より安全が最優先されなくてはなりません。だからこそ、先天異常と不妊治療技術との因果関係を完全に否定できない現状において保険適用になった場合には、出生児に何か問題が認められたときには、医療機関に限らず、むしろ国も責任を負う可能性が残るのではないかと危惧します。

また保険適用になることで、一律保険点数内で管理された技術の提供に収めざるをえない状況になると医療の質が低下し、その結果2次的な社会問題が発生するリスクも否定できません」(黒田医師)

金銭的なハードルが低くなることで、女性側からすると不妊治療を諦めるタイミングの難しさも出てくるだろう。菅首相の一言で持ち上がった不妊治療の保険適用化だが、同時に法整備も国を挙げて対応していかないと、少子化問題の解決にはならず、机上の空論で終わってしまうかもしれない。

不妊治療はすでに確立された医療のように思えるが、実は、誕生する命の安全保証という視点からみると、いまだ発展途上にあると改めて認識すべきだ。少なくとも不妊治療に携わる医療従事者の知識や技術が標準化され、不妊治療に関する法整備も含めてガイドラインが確立されることが何より大事なのではないだろうか。

草薙 厚子 ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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くさなぎ あつこ / Atsuko Kusanagi

元法務省東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。地方局アナウンサーを経て、通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門でアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリーランスとして独立。現在は、社会問題、事件、ライフスタイル、介護問題、医療等の幅広いジャンルの記事を執筆。そのほか、講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても幅広く活躍中。著書に『少年A 矯正2500日全記録』『子どもが壊れる家』(ともに文藝春秋)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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