不妊治療の保険適用で浮かび上がる「根本問題」 日本の不妊治療にはまだまだ課題がある
2016年度の厚生労働省の発表によると、男性不妊の原因の82.4%が精巣で精子を十分につくれない障害(精子の問題)、13.5%が勃起不全などで性行為ができない障害、3.9%が精子の通り道が詰まって出てこない障害となっている。保険適用により治療を受けやすくなることで、これまでは表に出なかった男性側、また精子の問題も前面に浮上してくることになる。
これまで金銭面での負担軽減のみに焦点が当たっているが、専門家からみて、保険適用によってどのような問題が生じるのか。『本当は怖い不妊治療』の監修者、産婦人科医であり「臨床精子学」の第一人者でもある黒田優佳子医師に訊いてみた。
不妊原因は夫婦ごとに異なり治療は複雑
「今、不妊治療は“安全性が保証されている”確立した医療であるかのようなイメージもありますが、新しい治療であり、まだ効果や安全性など科学的根拠に基づいたエビデンスが確立していない部分があります。
不妊原因は細かく分類すると、男女とも数十から数百あります。妊娠は、妻と夫の状態の掛け算(妊娠=妻✕夫)で成立しますので、不妊原因の組み合わせが夫婦ごとに大きく異なることが治療を難しくしています。
どんなに妻の治療がうまくいっても、夫の精子の状態が悪いままでは妊娠率は上がりませんし、逆も同様です。さらに具体的に言えば、治療容易な不妊原因をもつ夫婦は妊娠できる可能性は高くなりますが、治療困難な原因をもつ夫婦は治療を繰り返しても妊娠する可能性は極めて低くなります」(黒田医師)
例えば、子宮筋腫などの婦人科疾患は、目の前の患者1人が治療対象となり、治療法もある程度決まっている。一方、不妊は、夫婦がもつ複数の不妊原因が絡み合っているため、不妊治療の方法も成功率もリスクも夫婦ごとに異なり、非常に複雑になるということだ。
治療法は確立していて治療を繰り返していればいつかは成功する――、不妊専門施設ホームページには、まるでそう言っているかのような明るいイメージのサイトも少なくない。ときに、高い成功率をうたっているようにも読み取れる。しかし、不妊治療で生まれた子どもへの影響(先天異常を含めたリクス)に関しては、ごく一部の施設を除き、あまり開示されていないのが実情だ。
「“どうしてあなたたちは不妊なのか”という夫婦ごとの不妊原因を厳密に解析して具体化しなければなりません。健康な命が誕生するために“どのような技術をどのように組み合わせたら、安全で適切な治療を提供できるのか”という、夫婦ごとのオーダーメイド治療(個別化治療)を組み立てることが不可欠です」(黒田医師)
現在の不妊治療の主流は、顕微授精(1匹の精子を卵子に穿刺注入し、人の手を介して人為的に授精させた胚を子宮に戻す技術)で授精させた受精胚を胚盤胞まで長期体外培養を行い、1度凍結させた後に解凍させた胚盤胞を子宮内に移植するというものだ。
顕微授精の急速な普及により出生児が増えたが、2011年の厚生労働省の不妊治療出生児に関する調査では、顕微授精・胚盤胞培養・胚盤胞凍結保存の人工操作を加えるほど出生時体重が増加することが報告された。
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