不妊治療の保険適用で浮かび上がる「根本問題」 日本の不妊治療にはまだまだ課題がある

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「この胎児過剰発育には、ゲノムインプリンティング異常(遺伝子の働きを調整する仕組みに異常が出る病態)が関与している可能性が指摘され、先天異常を専門とする小児科医や研究者らは、『顕微授精や胚盤胞培養のリスク』を危惧する研究成果を報告しています。

そのような背景のなか、“顕微授精は安全です。自然に妊娠したときと同じくらいのリスクです”と説明されることも少なくないようです。出生児の精神発達障害を含めた心身発育状況が表面化してくることはほとんどありません」(黒田医師)

精子機能異常に根本的な治療法はない

一方、アメリカ疾病対策センター(CDC)が、2015年『American Journal of Public Health』に掲載した、コロンビア大学教授ピーター・ベアマンらの大規模疫学調査データでは、「先天異常と顕微授精との間に因果関係がないとは言い切れない」という見解を出している。

「実際のところ、先天異常と顕微授精・胚盤胞培養・胚盤胞凍結などの技術との間に因果関係がないということを科学的に証明することは極めて困難ですが、安全性が明確に立証できていない現況にあるからこそ因果関係があるという前提で危機管理をすべきであると考えます。

不妊治療の効果や安全性に関して、科学的根拠に基づいたエビデンスが確立していない部分がありますので、今はまだ保険適用を可能にする基準を満たしていない状況なのではないでしょうか」(黒田医師)

黒田医師によると、不妊の約半数は精子の問題であり、単に精子数が少ないとか、運動率が低いだけではなく、見かけだけではわからない隠れた精子機能異常(DNA損傷や卵子との接着に関わる先体機能障害ほか)が多様に潜んでいるという。

「精子機能異常は、精子数や運動率を見る一般的な検査では見極められませんが、高精度な分子生物学的な解析技術を確立しえたことにより、精密に調べられるようになりました。

しかも精子機能異常の背景には、難しい理論になりますが、新生点突然変異(デノボピンポイントミューテーション)という遺伝子異常が関与している可能性が高いため、根本的な治療法はありません。その点を踏まえると『治療をやめる勇気』が必要な場合も出てきます」(黒田医師)

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