人の幸せは「年収2倍」でもさほど変わらない訳 お金を稼いでも幸せな人とそうでない人がいる

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その特徴とは……。 これまでの人生を振り返って、うれしかったこと、感動したこと……そのほとんどが「経験」「体験」によるものだということです。 「給料がアップした時」「大金を手にした時」あるいは「ブランド物のバッグを買った時」「高級腕時計を買った時」など「お金」「モノ」を手に入れた時については、ほとんど答えとして挙がってこなかったのです。

「人に自分のこれまでの人生のストーリーの概要を書いてもらうと、モノについてよりも、経験的なことや、経験的な買い物(旅行や演劇を観るなど)について書く傾向がある」 アメリカのコーネル大学教授の心理学者トーマス・ギロビッチも、そう発表しています。

私たちがうれしかったこと、感動したことで思い出すのは、いつも「経験」や「体験」ばかりです。だから、経験や体験を得られることにお金を使えば、自然と私たちの人生は幸せな思い出にあふれ、そして幸せな出来事にもあふれるというわけです。

モノにお金をかけるとストレスに

2020年の新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言……。自宅で自粛している時も、「旅行に行きたいな」とか「誰かに会いたいな」ということばかり考えていたのではないでしょうか。「高級なバッグを買いたいな」なんてことではなかったはずです。

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さらに、経験や体験にお金を使った満足感(幸福感)は、時が経つにつれて増加していく傾向があります。 その一方で、モノにお金を使った場合の幸福感は時が経つにつれて減少することもわかっています。 なぜ、幸福感が減少してしまうのか? それは、モノにお金を使うと、その後に〝ストレスになる出来事〞が待ち受けている場合が少なくないからです。

たとえばブランド物の高級バッグを買って、その時はうれしかったとしても、街に出ると自分と同じものを持っている人を見てがっかり。汚してしまったり、傷つけてしまってがっかり。時間が経過すると、新作が出て自分のものが旧作となりがっかり ……なんてことが起こりえるのです。 もちろん、モノを買わないで生活することはできないので、「モノにお金を使ってはいけない」というわけではありません。

「限られた自分のお金をどのようなバランスで使っていくか?」それを考える際には、経験、体験を優先すると幸福感がいつまでも続く……そうした科学的裏付けがある、というお話でした。

(文:星渉)

星 渉 著作家、経営コンサルタント

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ほし わたる / Wataru Hoshi

著書累計7冊45万部。株式会社Rising Star代表取締役。1983年仙台市生まれ。大手企業で働いていたが、東日本大震災に岩手県で被災。生死を問われる経験を経て「もう自分の人生の時間はすべて好きなことに費やす」と決め、2011年に独立起業し、心理療法やNLP、認知心理学、脳科学を学び始める。それが原点となり、個人の起業家を対象に「心を科学的に鍛える」を中心に置いた独自のビジネス手法を構築。『神メンタル』『神トーーク』(ともにKADOKAWA)は25万部突破のベストセラーに。

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前野 隆司 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授

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まえの たかし / Takashi Maeno

1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年より慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。
 

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