コカ・コーラが「たまに買う客」を重視する真相 ターゲットマーケティング信者が見落とすもの
もしあなたがまったく新しいソフトドリンク会社を設立して、その会社でブランドを自由に2つ選べるチャンスがあったとしたら、選ぶべきは「コークとファンタ」ではない。世界で最も売れている「コークとペプシ」なのである。同じコーラ飲料でも、まったく問題はない、ということだ。
アップルの新商品の発売前日に徹夜で店に並ぶファンの人だかりや、アメリカでハーレーにまたがった熱狂的バイカーが一堂に集まる光景を、私たちはニュースなどでよく目にする。アップルとハーレーダビッドソンは、熱狂的な顧客が多いと思われているブランドの筆頭だ。そこで多くの人たちが「わが社もアップルやハーレーのような熱狂的顧客を作り出すべきだ」と考える。しかしこれは大間違いである。
実際にパソコンの反復購買率(同じブランドを再購入する比率)を調べると、シェア1位のデルは71%、HPは52%、アップルは55%。アップルは他社パソコンとの互換性がない割には、反復購買率はとくに大きくない。熱狂的顧客の影響は見られない。
では、ハーレーの所有者はどうか? 熱狂的ハーレーライダーは全体の10%だが、売り上げは全体のわずか3.5%だ。彼らは低所得で収入を部品に注ぎ込み、しかもバイクを買い替えないので、売り上げ貢献度は低い。
実際にはハーレー所有者全体の40%は不満足で、車庫にバイクを入れっぱなしだ。またハーレー所有者の反復購買率は33%。顧客ロイヤルティ指数としては平均値だ。
つまりアップルもハーレーも、熱狂的信者は少数派なのが現実だ。実は売り上げの面で最も重要なのは、ブランドのことをあまり深く考えずに商品を買って売り上げに大きく貢献してくれる「ブランドにさほど興味がない」人たちなのである。
「差別化」ではなく「独自性」を追え
よく「ブランドを差別化して、消費者にわかりやすく示せ」と言われる。差別化はブランドでは必要不可欠と思われているが、実際に調査すると、消費者は企業が仕掛ける差別化にほとんど気づいていないのが現実だ。
「差別化」というと真っ先に思い浮かぶアップルでさえ、ユーザーの77%は「アップルは他ブランドと異なる」「ユニークだ」とは認識していない。マックは独自のシステムだが、多くのユーザーは技術に疎い。他社パソコンと同じメールや文書作成作業をするためにマックを買っている。つまり現実には、大成功したアップルでさえ差別化には成功していないのである。
本書の著者・シャープ教授は、「消費者に製品の違いを納得させる必要はない。消費者の購買を促す仕組みづくり、つまり独自性があるブランディングに注力すべきだ」と言う。製品の機能の違いである差別化はいずれライバルに追いつかれるので長く続かないが、独自性があるエッジが立ったブランディングは、一度構築すれば長続きする。
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