「京都に死ぬほど憧れた」女子が捨てなかった夢 「更級日記」の筆者が本当に伝えたかったこと

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「京都以外は田舎」という考えは、古典文学の中で顕著に表れている(写真:Blue Planet Studio/iStock)

私は究極の方向音痴だ。最近はスマートフォンに付いている地図アプリがやっと使えるようになったので、現地集合に猛反対することは少なくなったけれど、1人行動は依然としてキケン極まりない。

クリック1つで航空写真に切り替えたり、情報がリアルタイムで更新されたりするような世の中だからこそ、地図が正確であることは当たり前だと思いがちだが、技術がまだそこまで発展していなかった時代の地図は空白ばかりで、素朴なものも多かった。

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帝国の地理を把握すべく、初代ローマ皇帝アウグストゥスに命じられたアグリッパ将軍の測量士たちは、重いロープと測定棒を持って広大な土地を歩き回っていたのだ。その涙ぐましい努力の結果はすごいことになっている。ローマ近辺は非常に細かく、誰彼の家とまで記載があるのに、中心地から遠ざかっていくにつれてびっくりするほどいい加減になる。

海の反対側に広がるアフリカ大陸やギリシアの東側辺りになると力が尽きて、「Hic sunt leones(ココはライオンがいる)」とだけ書いて、きれいな絵でごまかしていたのだ。その奇抜な発想と潔い割り切りはいかにも古代ローマ人らしい。

「京都以外は田舎」という平安人の考え方

平安人もまた、ローマ人と似たような考え方を持っていた。京都は世界の中心であり、そこから少しでも離れたら、いろいろな危険が潜む野蛮な田舎があるのみ。地方で官僚を務めていた人たちは、富と食料をどっさりと蓄えられたので、ヘタすると都にいるより贅沢な暮らしを楽しめたはずだが、彼らの内なるコンパスはいつだって京都に向かっていた。

その思い入れは古典文学の中でも顕著に表れている。

例えば、いけない相手に手を出し、お粗相してしまった在原業平や源氏君には、古都から追い出されてしまう有名なエピソードがある。そこで、着物の袖を濡らしながら、大好きな都会に背を向けるお2人の悔しさと絶望感といったらない。

彼らはフィクションの登場人物なので、重い罰を食らっても、さほど時間が経たないうちにめでたく復帰を果たせたのだが、現実はもっと厳しかった。一度失脚したらなかなか戻ってこられなかったらしい。しかも、田舎はもちろん論外だが、同じ平安京の中でもどこでもいいわけではなかった。殿上人が年中行き交う御所、超セレブたちが集まるところ以外は御免被りたいという感じで、下々と同じ空気を吸うなんて、死んだ方がマシだった。

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