小難しい「科学の話」を面白く伝えるための方法

一般の人と「同じ目線」に立つことが大切だ

川上:僕も鳥の機能を知りたいとか、大きな生物の世界でのある事象がもつ意味をよく考えます。『八月の銀の雪』でも、科学の面白い事象を集めた小ネタではなく、その科学要素のもつ意味が書かれていますよね。

伊与原:そういっていただけるとうれしいです。科学をトリックのネタにしたり、トリビア的に使ったりする小説はたくさんあると思いますが、僕はそういうものは書こうと思いません。

それよりは、「科学とはこういうものですよ」「研究者はこんなことを考えているんですよ」ということを小説に書きたいと思っています。

川上:科学で言うと「レビュー」に当たるものがあると思います。1つひとつの研究成果というよりは、その事象がその分野の中でもつ意味を伝えるものですね。それは、研究者が論文を書くより、科学ジャーナリストが書いたり、伊与原さんが小説で書くほうが伝わると思いますね。

伊与原:この間、ツイッターを見ていたら、「理系の研究者しか使わない言葉」というふうなテーマでいろんな人が投稿していました。そこで、「これがわかると何がうれしいかと言うと」という言葉が話題になっていて。理系の研究者にとっては定番のセリフなのですが、これが意外と科学の本質をついているような気がするんです。

科学を広められるのはエンタメ

川上:僕が学生時代、教官に言われていちばん怖かった言葉は、「君の話の内容はわかったけど、それのどこが面白いの?」でした(笑)。

伊与原:要するに、研究者たちの間では「面白いこと」「わかるとうれしいこと」が科学の肝であるという共通認識があって、その部分を皆で共有しようとしている。でも、それをはたして世間に広めようとしているかというと……。

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川上:僕は結局、科学的事実を広く一般に伝えられるのは、論文でも科学ジャーナリストでもなく、エンターテインメントだと思っています。

僕たち研究者がいくら「保全をしましょう」と言っても、それに聞く耳をもつのはそもそも保全の大切さをわかっている人だけです。一方で、宮崎駿さんが『風の谷のナウシカ』を一本作ってくれれば、ガラっと一般の方の認識が変わるわけですよね。

伊与原:それは本当にそうですね。

川上:僕も一般の方に同じくらいの目線で科学の大切さとか面白さを伝えていきたいと思って、本を書いています。

伊与原:小説でも、「科学の素晴らしさ」を上から押し付けるような書き方はダメだと思うんです。科学はあくまで世界の見方のひとつですから、その景色の良さを物語として描いていきたいですね。

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