だが、「翼」なら、1971年に赤い鳥のフォークソング「翼をください」が大ヒットしたし、「桜」なら、日本古謡「さくらさくら」が江戸時代から歌い継がれている。定型句は今に始まったことではなく、昔から耳になじんだ言葉だ。
「日本人の心は昔からあまり変わっていない。心のどこのツボを押せば感動するかは、だいたい決まっている。4つの定型句は、日本人が好きな言葉、嫌いな人がほとんどいない言葉にたどりついた結果とも言える」とマキタスポーツさんは解説する。
「翼」「扉」「桜」「奇跡」は、日本人がワクワク、うるうるしてしまう言葉なのかもしれない。
個人的な体験を盛り込むと、歌に魂が宿る
ただ、そのありふれた言葉をつなぎ合わせるだけでは、まるでパッチワークの陳腐なポエムになる。
ヒット曲には、歌詞の定型句と合わせて「4つの法則」があり、そのうちのひとつが「オリジナリティ」だとマキタスポーツさんは明かす。
「自分にしか発せられない言葉、個人的な体験を歌詞に入れることによって、歌に魂が宿る。これがあるから、歌い手は思いを込めて真剣に歌える。いわば定型句は、世の中の最大公約数の人の心をとらえるもの。個人的な体験は、最小公倍数の人に刺さるもの。この2つがあるから、歌が広がっていく」
「4つの法則」のあと2つは、「コード進行」と「楽曲構成」だ。この法則にのっとれば、本当に感動を呼ぶヒット曲ができるのか、マキタスポーツさんが実験的な試みとして作詞・作曲したのが、「十年目のプロポーズ」という歌である。
歌詞に「翼」「扉」「桜」「奇跡」「宝物」「エール」「ありがとう」「歩き出そう」「言葉」「大切な日々」の定型句を散りばめて、「結婚10年目に妻にプロポーズした」という個人的体験を盛り込んだ。
聞き手の反応は、「感動しました!」と「皮肉がきいていて面白い!」の2とおりに分かれ、音楽ダウンロードサイト「レコチョク」でランキング入りした。
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