和歌山「野菜の魔術師」が東京進出に興味ない訳 1日1組だけ、プロの料理人も訪れる人気店
まず1品目はヤヱガキ酒造のフラグシップ「栄雅 純米大吟醸」に合わせる「黒豆蜜煮」です。自家製の黒豆をやや硬めにシロップで煮た一品で、ほのかな甘みとほどよい硬さが豆の味わいを引き立たせています。旨みを押さえたふくよかですっきりとしたバランスの良い大吟醸とも実によく合います。
2品目は「栄雅 特別純米」と合わせる「ドライトマト 梅塩」。器の縁に梅塩がまぶされていて、まずはこれをひと舐めしてからお酒をいただきます。特別純米酒のもつ米本来の重厚な旨みが梅塩によって開花する感じです。器の中にはキュウリのピクルスとドライトマトが。
「友人が梅干し屋さんをやっていて、昔ながらのしょっぱい梅干しを作っているんですが、その液体をずっと煮詰めて作った梅塩です」
ピクルスもドライトマトも、背筋が伸びるような峻烈な味わいです。
「これはワインでもいけるし。でも日本酒と合わせた時に、意外と合うなと思って」
シェフ自身も色々発見があったようです。
3品目は「長谷川 純米大吟醸 三割五分」に合わせた「柚餅子クリーム」。柚餅子と言っても和菓子の方ではなく、柚子に味噌を詰めて干して作る珍味の柚餅子にクリームを合わせた独創的な一品。
「柚餅子はウチでもつくるんですけど、そのままじゃつまらない。いま、僕が作るならっていう物を考えました。イタリアンというベースもあるし、僕自身が色んな所を旅してきたのを反映したいと思っていますので。そうやって誰にもできない新しい味というのを常に考えていきたいんです」
これまた、柚子の風味とクリームの優しい口溶け感が、柔らかく優美なお酒と相性抜群です。
4品目は「長谷川 純米大吟醸 五割」に合わせる「かぼちゃ みりん 七味」。裏ごししたカボチャのピューレにゼリー状のみりんを合わせた一品。ほの甘いかぼちゃの懐かしいような味わいに、七味のピリッとした辛みが素晴らしいアクセントとして効いています。
「自分の身の回りにあるもので作っているんですけど、ただ、かぼちゃを炊いただけじゃ面白くないんで。それをよりセンス良く昇華させることが大事かなと。そうしていく努力を続ければ食べる人の気持ちを豊かにすることにつなげていけるのかなと」
確かに食べているこちらの感覚も研ぎ澄まされるようです。
最後の5品目は「長谷川 特別純米」に合わせる「玄米 酒粕 生姜」。これは、おせんべい?
「そうですね。ウチは米農家なんで、お米を使ったせんべいです」
パリッとしつつ、しっとり感も併せ持ったせんべいは、酒粕のほの甘さゆえに、上にまぶされた生姜の味わいが実に刺激的。旨みと酸味のバランスが取れたお酒だからこそ、この組み合わせがより新鮮な驚きとなって感じられます。
たかが酒のアテがここまで強い印象をもたらす料理に変貌すること。それを楽しむことが食の豊かさなんだなと改めて実感する時間でした。