ノーベル賞でわかる「勝者の呪い」の回避方法 現実社会にも貢献したスタンフォードの2人

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──近年のノーベル経済学賞受賞者の傾向として、現実に与えた影響の大きさが評価されている感じはありますか。

それはあります。例えば2012年は、アルヴィン・ロス氏とロイド・シャプレー氏がマーケットデザインを理由に受賞しました。この年にやはり強調されたのが、実際の市場設計、マーケットデザインへの実践的な貢献でした。理論だけではなく、社会実装という応用がセットで評価されたというのは、2012年も今回も同じです。

昨年、3人の開発経済学者による受賞も、自然科学や医学分野でよく使われているRCTというランダム化の手法をいち早く経済学に取り入れ、方法論のフロンティアを切り開いたことが評価されてのもの。3人はRCTを用いて、今まで解明できなかった現実の重要な因果関係をいくつも炙り出しました。

実践面に貢献した人たちが受賞

──それは、昔のノーベル賞とは明らかに異なる最近の特徴と言えるものなのでしょうか。

 言えると思います。これから先も、より応用・実践面に貢献を残した人の受賞が割合としては増えてくるのではないでしょうか。純粋な理論や手法を開発したというだけでノーベル賞をもらえそうな人は、もうそんなに多くない。

──そういった受賞者が増えると、経済学のイメージも変わっていきそうですね。

この流れの中でいちばん大きいのは、経済学が学問としてかなり成熟してきたこと。僕の専門分野もそうですが、とくにミクロ経済学、その中でもミクロ的な分野であればあるほど成熟の度合いが高い。

今回の受賞者2人についても、理論の面では、40〜50年前の基礎研究がきっかけになっています。その理論が時を経て実際に活用、実践されるようになった。試行錯誤しながら、現実的な要因を汲み取る実践知が理論と融合し、応用されるということが、いろんな分野で進み始めています。そんな部分にも目を向けてみると、経済学のまた違った面が見えてくるかもしれません。

本記事で紹介した事例や理論のほかに、オークションにおける談合や2021年以降のノーベル経済賞についても話している安田氏のインタビューを「週刊東洋経済プラス」で掲載しています。
【前編】2020年ノーベル経済学賞の注目ポイント
【後編】オークションは「談合」を防げるか
山本 舞衣 『週刊東洋経済』編集者

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やまもと まい / Mai Yamamoto

早稲田大学商学部卒、2008年東洋経済新報社に入社し、データ編集、書籍編集、書店営業・プロモーションを経て、2020年4月育休を終え『週刊東洋経済』編集部に。「経済学者が読み解く現代社会のリアル」や書評の編集などを担当。

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