ノーベル賞でわかる「勝者の呪い」の回避方法 現実社会にも貢献したスタンフォードの2人

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周波数オークションでは、得られる利用権そのものは誰が落札しても同じ共通価値を持つけれど、その周波数帯をどれくらい活用してどれくらい稼げるかは事業者側のビジネス戦略や経験、コスト状況といったものに依存する私的価値です。

つまり、相互依存価値の下でオークションが行われる。日本で考えるなら、ドコモとソフトバンクがまったく同じ周波数免許を獲得したとしても、彼らが追加的に稼げる金額が同じとは限らないですよね。

そして、共通価値があるケースで厄介なのが勝者の呪いでした。みんな払いすぎを恐れるので、割り引かなければいけない。

どこまで割り引くべきかを見いだすのは難しいけれど、例えば、紙に書いた入札額を提出して最も高い金額を書いた人が勝者になる封印入札型のオークションよりも、公開入札で徐々に価格が上がり、1人去り2人去りと参加者が脱落していく競り上げ式のオークションのほうが、勝者の呪いが緩和されると知られています。よって、ミルグロム氏とウィルソン氏が主導した周波数オークションでも、競り上げ式が採用されました。

複数を同時に売ることで問題を解決

また、このオークションの最大の特徴は、複数あるいろいろなエリアの周波数帯域の免許を同時に売ったことです。アメリカは国土が広いので、地域ごとにバラバラに周波数免許を割り当てている。

そうすると、カリフォルニアの免許とニューヨークの免許の両方が欲しいと考えているときに片方しか取れない事態が起こるとまずいし、あまりに金額が高騰したらどちらも買わないのが最適かもしれない、両方でビジネス展開したいのに間違って片方だけ落札してしまうと困る、といったいろいろな問題が出てくる。これを避けるには、同時に売るのがよいだろうということです。

ただ、売り方を工夫しないと間違って多めに買っちゃうとか、1つしか買えないということがやはり起こるかもしれない。そこで彼らが考えたのが、基本的には競り上げ式だけれど、各スロットを同時にオークションにかけて、それぞれ好きなオークションに参加し、競り上げることができるフォーマットです。この方式は「同時複数ラウンド競り上げオークション」(SMRA)と呼ばます。

実施した結果は大成功で、公平なやり方で各事業者に免許を行き渡らせたと同時に、もともとは無料で配っていた免許から、アメリカ政府は多くの収入を得ました。この政府収入は国民に還元されるので、2人の作った仕組みは一般の人々にも恩恵をもたらしたことになります。もちろんアメリカだけでなく、世界各国でこうしたオークションが実施されているので、彼らが現実世界に与えた影響は、はかりしれません。

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