日本人は「スポーツの便益」を軽視しすぎている ドイツでは市が無料で運動プログラムを提供
オリンピックの開催について揺れる日本だが、スポーツにはさまざまな社会的価値や機能がある。オリンピックも大切だが、こんなときこそ、じっくりスポーツの価値について考え、地域社会のなかで活用していくことを考えてみてもよいのではないか。筆者が住むドイツの、地域におけるスポーツの一端をお伝えする。
日本とは別物のドイツの「スポーツクラブ」
スポーツに関心のある人がドイツを訪ねたとき、羨む風景がいくつかある。地域ごとに「スポーツクラブ」があり、地元のアマチュア・サッカーの試合を地元の人がビールを飲みながら見ていたり、クラブハウスのレストランで仲間同士が飲食を楽しむ。そんな風景に出くわし、生活との延長に「プレーする人」「見る人」「社交を楽しむ人」の姿を見て「こういうことが日本にもあればなあ」と思うようだ。
ここでいう「スポーツクラブ」とは、日本によくある私企業が運営する会員制フィットネスクラブの類ではない。NPOのような非営利法人だ。ドイツはこういったスポーツクラブが9万件以上ある。
たとえば筆者が住むエアランゲン市は人口11万人だが、この町だけでも100件程度ある。数からもわかるようにドイツに暮らす人々にとってスポーツクラブは、生活の中で身近な存在なのだ。しかも、100年以上の歴史を持つところも少なくない。
競技もサッカーにはじまり、ハンドボール、テニス、ラグビー、水泳、柔道などかなりの種類がある。それらの競技を単体で扱っているクラブもあるが、複数の競技を扱っているクラブも多い。メンバーも老若男女。ドイツの学校には日本のような部活がないので、子供や青少年がスポーツをやりたければ、まず考えるのがスポーツクラブになる。
日本で大人が「若いころ、サッカーをしていた」と言うと、「この人は中学や高校でサッカー部だったんだな」と考えるだろう。一方でドイツでは、「スポーツクラブでサッカーをしていたんだな」と通常考える。そして言葉を継ぐこともある「今もやってるの?」。
スポーツクラブは学校とは別の組織で、いわば社会一般の「同好会」だ。だから卒業とともにスポーツをやめるという発想はない。そのまま同じクラブでスポーツを楽しむ人も多いし、進学や就職で違う町へ引っ越しても、またその地元のクラブでスポーツができる。実際、スポーツクラブには中高年のメンバーも多い。これが「今もやってるの?」という質問の背景である。
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