日本人は「スポーツの便益」を軽視しすぎている ドイツでは市が無料で運動プログラムを提供

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ここで留意しなければならないのが、中高年がなぜスポーツを続けられるかという点だ。ドイツは職住が比較的近く、仕事も定時になればさっと帰る。

だから、平日でも夕方からスポーツクラブで仲間たちとわいわい言いながらトレーニングを楽しんだり、試合をしたりできるのだ。ドイツに赴任したことのある日本のビジネスマンの中には、「1日が2度あるかのようなライフスタイル」と表現する人もいる。

充実している運動プログラムとその環境

今日、「健康」で気になるのがこのコロナ禍での運動不足であろう。ドイツでは3月から6月初旬にかけて外出やスポーツに制限をかけたが、単独での散歩やジョギングは許可していた。

都市計画の側面からいえば、安心してジョギングや散歩ができる緑地帯や歩道、遊歩道があるかどうかがカギだ。エアランゲン市の場合、運動のために特別作ったわけではないが、こういった空間が比較的整備されている。

森が運動インフラとしても機能していて、住宅地などからもアクセスしやすい都市計画が行われている(筆者撮影)

また市街中心地は歩行者ゾーンになっていて、いわゆる「ウォーカブルな町」だ。コロナ危機下、小売店の営業が禁じられていても散歩のために出てくる人がいた。また町全体を囲むように森が広がっていて、どこからでもアクセスしやすい。

普段からジョギングや散歩、ノルディックウォーキング、サイクリングなどに使われているが、外出制限下では運動環境としての機能を遺憾なく発揮。筆者自身も自宅近所の森を定期的に走った。10月に入ってからの新型コロナ感染者数の増加を受け、11月2日から4週間、接触が制限され、再びスポーツが休止になる。ここでもまた、森の価値が発揮されることだろう。

エアランゲン市を見ていると、市がスポーツクラブや市内にある健康保険を扱う企業健康保険基金会社らと組んで、無料のスポーツプログラムを用意することもある。だれでも参加できるもので、健康増進が目的だ。

企業健康保健基金会社や自治体側から見ると、病気になる前に人々が健康でいることのほうが望ましい。これは医療費の削減につながる。またこういう機会があると、必然的に家の外での社交も増える。身体のみならず、精神的な健康にもつながる。

この無料のプログラムは、スポーツクラブの存在があってこそのものといえそうだ。というのもクラブは自前の施設を持っていることも多い。また、有料ボランティアというかたちが圧倒的に多いが、トレーナーの資格を持った人も揃っている。スポーツクラブは「社会の同好会」と表現したが、それ以上に地域社会のスポーツインフラになっているのがわかる。

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