日本人は「スポーツの便益」を軽視しすぎている ドイツでは市が無料で運動プログラムを提供

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スポーツクラブには老若男女がメンバーになっているが、高齢者のためにノルディックウォーキングやウォーキング、フィットネスなどの運動プログラムを用意するクラブもある。

また、高齢者たちのための遠足などを企画するケースもある。元気な人ならば、柔道などの格闘技系のものでも続けている高齢者はいる。これもドイツのスポーツクラブが、「試合をする」だけが目的ではなく、あらゆる世代があくまでもレクリエーションとしてトレーニングができる内容だからだろう。

エアランゲン市が主催する無料のスポーツプログラムでは、外出制限で一時期中止されていた高齢者向けのプログラムが9月頃から再開されていた。同類のものは、他の小自治体でも行われている。この手のプログラムは重要だ。というのも高齢者の場合、このプログラムが唯一、家族以外の人との接点というケースもあるからだ。

それだけに、11月からの制限措置による高齢者の健康問題が日本同様に懸念されるものの、ドイツには自治体の中に複数の運動機会やその環境があるのだ。

社交・健康・余暇は地域の基礎になる

スポーツや運動がどのように「運用」されているかを見ると、その国や時代が見えてくる。とりわけドイツでも戦時中はスポーツマンに対して規律と体力を持った兵士の理想像と重ねられていた。しかし戦後は工業化の発展とともに、人々の全体的な健康や余暇が大きなテーマになってくる。そういう課題に対して、さまざまな振興策やプログラムの開発が行われてきた。

『ドイツのスポーツ都市: 健康に暮らせるまちのつくり方』(学芸出版社)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

またスポーツクラブ自体の歴史は古いが、当初からスポーツをともにする仲間という位置づけで、年齢や職業を越えたメンバー間の平等性が強調されてきた。これが現代の「社交としてのスポーツ」とも相性がよい。

日本に目を転じると、スポーツ文化といえば「体育会系」である。試合に勝つことにこだわりすぎる傾向があり、先輩・後輩という人間関係の序列がある。こういったスポーツ文化は、経済成長に価値をおいた日本とうまく噛み合った。「体育会系は就職に有利」と言われたのはその理由のひとつだろう。当時の猛烈に働く会社員と「体育会系」のイメージは重なりやすい。

だがそろそろ、地域ごとの「社交や健康、余暇」を充実させるため、スポーツの環境を整えることを考えたほうがよいのではないか。地域の人々の「生活の質」が向上する可能性が高いからだ。スポーツ環境の整備によって「ソーシャル・キャピタル」と呼ばれる、人々の信頼性やネットワーキングなどが分厚くなれば、地域社会そのものを支える基礎的なものが分厚くなるということでもある。

スポーツにはたくさんの機能がある。それを使わない手はない。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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