クセが凄い「論理的なのに下手な文」を読むコツ 安倍前首相の所信表明演説から学ぶ

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もし、極めて説明的に書くとすれば、以下のようになるだろう。

十五年前、一人のALS患者の方にお会いしました。「人間どんな姿になろうとも、人生をエンジョイ出来る」という思いを強くしました。その方は、全身が麻痺していても弾くことができるギターを自ら開発し、バンド活動に打ち込んでおられます。更には、介護サービス事業の経営にも携わっておられます。私は、演奏会にも伺い、その多彩な活動ぶりを、長年、目の当たりにしてきました。その方こそ、令和になって初めての国政選挙で当選なさった舩後靖彦さんです。当選を友人として、心よりお祝い申し上げます。

これをあえて冒頭のような文体にしているということは、弱者に心を寄せた情緒的な文章にしたいという意識の表れと考えることができる。

この文章のキーワードは、「一億総活躍社会」。それが意味しているのは、「すべての人が個性を活かして参加できる社会」といえるだろう。

この文章は、第二部で示されているような、差別、偏見のある社会に反対している。そのうえで、「一億総活躍社会を共に創り上げよう」と語っているわけだ。

難病と障害についてしか取り上げていない

では、もう少し深く掘り下げてみよう。

●それは何か(定義)
「一億総活躍社会」とはどんな社会か。そもそも「活躍」とはどのようなことを指すのか。おそらく、日本人全員が生きがいを持って、自分らしく生きていくことのできる社会というような意味だろうが、この文章で、あるいは政府見解においても、この言葉の定義が十分になされていないことに気づくはずだ。

●何が起こっているか(現象)
今、「一億総活躍社会」についてどのようなことが起こっているのか。この文章で取り上げられていること以外に、どのようなことが起こっているか。

そう考えると、ここでは難病や障害についてしか取り上げられていないが、「一億総活躍」というからには、女性の活躍、引きこもっている人の活躍、非正規雇用者の活躍、高齢者の活躍などが問題になるはずだ。それなのに、それらが取り上げられていない。

また、「みんな違う」という状況を作り出そうとしているが、日本ではとりわけ同調圧力が強く、「みんな同じ」であることが求められる傾向が強いといわれる。その状況についても触れられていない。LGBTQ+といった性的少数者の問題も取り上げられていない。

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