クセが凄い「論理的なのに下手な文」を読むコツ 安倍前首相の所信表明演説から学ぶ

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一見、論理的に構成されていないように思えるが、この文章は「問題提起」「意見提示」「展開」「結論」の四部構成になっている。

第1段落から第6段落までが、第一部「問題提起」にあたる。ただし、問題提起するというよりは、「ALS患者で国会議員になった舩後さんは個性を発揮して活躍している。次なる世代を切り拓いていくべきだ」という主張を最初にズバリと示している。

第7段落が第二部「意見提示」にあたる。この部分は一般的には、「確かに……。しかし……」というパターンで、反対意見を踏まえながら自説を示すのだが、この文章では、過去と現在を対比させて、「かつては……だった。しかしこれからは……」という形になっている。

ここで語られている内容は、「かつてはハンセン病患者への偏見、差別が存在した。しかしこれからは、補償を行い、差別、偏見の根絶に向けて政府一丸となる」とまとめられる。

第8・9段落が第三部「展開」にあたる部分で、「みんなちがって、みんないい」というスローガンを示し、「新しい時代に求められるのは、多様性である。みんな違ってよい。すべての人がその個性を活かすことができれば、少子高齢化も克服できる」と主張する。

そして最後の段落が「結論」にあたる。「一億総活躍社会を共に創り上げよう」と呼び掛けている。

以上のように、しっかりと論理的に構成されている。

主語が示されていない

ただし、下手な文章の一つの特徴がここにはある。そのために、論理的に読み取りづらくなっている。たとえば2行目の「人間どんな姿になろうとも、人生をエンジョイ出来る」という文がどのような意味なのか曖昧だ。安倍総理の標語なのか、それとも、このALS患者の方の言葉なのか。

しかも、第一部にあたる部分で、情緒的に弱者に寄り添うという姿勢を見せているため、

「全身が麻痺していても弾くことができるギターを自ら開発」「演奏会にも伺いました」「バンド活動に打ち込んでおられます。更には、介護サービス事業の経営にも携わる」「その多彩な活動ぶりを、長年、目の当たりにしてきました」

といくつかの文が重ねられるが、そこに主語が一切示されない。

主語が示されないときには、原則として同じ主語のはずなのだが、この文章では、主語が入れ替わっている。ますます曖昧になっている。

しかも、その後「国政選挙での、舩後靖彦さんの当選を、友人として、心よりお祝い申し上げます」と出てきて、これまで語られた患者が舩後さんだとほのめかされるが、それも伝わりづらい。

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