クセが凄い「論理的なのに下手な文」を読むコツ 安倍前首相の所信表明演説から学ぶ

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昨年10月の安倍首相(当時)の所信表明演説には、下手な文の特徴が出ている(写真:AP/アフロ)
コロナ禍でリモートワークが普及し、対人のコミュニケーションが激減した一方、メールやウェブ会議など、文章やオンラインによるやりとりの重要性が高まっている。相手の顔が見えづらい状況でこそ、これまで以上に必要となるのが「読解力」だ。
あらゆる文章を速く正確に読み解くコツを解説した樋口裕一氏の新刊『すばやく鍛える読解力』より、「癖のある文章」の読み解き方について、今回は安倍晋三・前総理大臣が行った所信表明演説を基に解説する

細心の注意を払って推敲されたはず

2019年10月4日、第200回臨時国会で安倍晋三総理大臣(以下当時)が行った所信表明演説を取り上げる。そこには、ALS患者でありながら、れいわ新選組から出馬して当選した舩後靖彦さんが初めて出席していた。

この演説は、以前から交流があったとのことで、反安倍政権を掲げているはずのれいわ新選組の議員を「友人」と呼んだことで話題になったことを覚えている方も多いだろう。

(一億総活躍社会)
十五年前、一人のALS患者の方にお会いしました。
「人間どんな姿になろうとも、人生をエンジョイ出来る」
全身が麻痺していても弾くことができるギターを自ら開発。演奏会にも伺いましたが、バンド活動に打ち込んでおられます。更には、介護サービス事業の経営にも携わる。その多彩な活動ぶりを、長年、目の当たりにしてきました。
令和になって初めての国政選挙での、舩後靖彦さんの当選を、友人として、心よりお祝い申し上げます。
障害や難病のある方々が、仕事でも、地域でも、その個性を発揮して、いきいきと活躍できる、令和の時代を創り上げるため、国政の場で、共に、力を合わせていきたいと考えております。
令和を迎えた今こそ、新しい国創りを進める時。これまでの発想にとらわれることなく、次なる時代を切り拓いていくべきです。
かつて採られた施設入所政策の下、ハンセン病の患者・元患者の御家族の皆様に、極めて厳しい偏見、差別が存在したことは、厳然たる事実です。そのことを率直に認め、訴訟への参加・不参加を問わず、新たな補償の措置を早急に実施します。差別、偏見の根絶に向けて、政府一丸となって全力を尽くします。
「みんなちがって、みんないい」
新しい時代の日本に求められるのは、多様性であります。みんなが横並び、画一的な社会システムの在り方を、根本から見直していく必要があります。多様性を認め合い、全ての人がその個性を活かすことができる。そうした社会を創ることで、少子高齢化という大きな壁も、必ずや克服できるはずです。
若者もお年寄りも、女性や男性も、障害や難病のある方も、更には、一度失敗した方も、誰もが、思う存分その能力を発揮できる、一億総活躍社会を、皆さん、共に、創り上げようではありませんか。

一見とりとめがなく、単に目標や成果を並べただけの文章に思えるが、そんなことはない。

もちろん、所信表明演説は安倍総理だけでなく、そのほかの優秀な政治家や官僚の目を通ってきているだろう。突っ込まれないように、難点を残さないようにと細心の注意を払って推敲がなされているはずだ。それはそれでよく考えられた文章といえる。

この文章も原則にのっとって読んでいこう。

次ページ論理的に構成されているが・・・
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