日本の「デジタル化推進」を阻む根本的な問題 「電波の開放」が未来の変革に繋がっていく
典型例が「放送」だ。日本では地上波デジタルテレビは40チャンネル分、帯域でいうと470~710メガヘルツという広大な領域を占めている。言うまでもなく、実際に運営されているチャンネル数はそんなに多くはなく、せいぜい8つ程度だ(地域によってはずっと少ない)。
放送事業者の言い分は、電波が県を越えて飛び混信するのを防ぐためチャンネルを使い分けなければならず、これぐらいの帯域が必要、ということだ。これに対し、縮減できるはずとの主張は以前からあった。
かつて規制改革推進会議でもこの問題を議論したが、放送事業者の答えは結局、帯域をあけることは不可能ではないが、再編にはコストがかかり「経済性」の問題がある、とのことだった。
つまり、問題はコストなのだ。NHKも民放も、40チャンネル分の帯域を占めていても微々たるコストしかかからない。電波使用料を払うのは40のうち実際に使われている分(茨城県ならばトータルで7チャンネル分)だけであり、金額でみると全国放送のNHKで年間25億円、民放キー局はそれぞれ6億円程度にすぎない(2019年度)。それでは、わざわざコストをかけ帯域を効率化しようとするわけがない。
ほかにも、「NHKのEテレは基本的に全国同一なのだから、衛星放送に切り替え、地上波帯域をあけられるはず」などの議論もある。さらに、番組のインターネット配信は今後もっと本格化していく。県ごとのローカル局がそれぞれ放送波で番組を流す構造は、そろそろ見直すべき時期だ。
市場メカニズムを活用するアメリカ
だが、こうした議論も一向に進まない。帯域占有があまりに安価で、効率化のインセンティブが働かず、一方で、総務省や政治はテレビにはなかなか手を出せないからだ。
アメリカでは、帯域をあけるため2016~2017年に「インセンティブオークション」が実施された。従来テレビ用だった614~698メガヘルツ帯域をオークションで買い上げ、通信事業者に売却する2段階のオークションだ。結果的に約100億ドルで買い上げ、約200億ドルでTモバイルなどに売却された。
中国では2020年4月、従来は放送用だった700メガヘルツ帯の96メガヘルツ幅が移動通信用に用途変更された。市場メカニズムを活用するアメリカと、政府が強力に再編を進める中国。その狭間で、どちらも中途半端な日本が「電波の開放」に出遅れるようなことになってはいけない。
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