日本の「デジタル化推進」を阻む根本的な問題 「電波の開放」が未来の変革に繋がっていく

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「電波オークション」は、古い政策課題だ。「規制緩和」が潮流となった1980年代から、世界各国で盛んに議論された。かつて20世紀終盤までの世界では、西側諸国でも一定の経済統制が標準的だった。

運輸・通信・電力・金融など多くの分野で、政府が価格や供給量を統制し、あるいは、最も強力な規制態様である国営・公営の事業運営がなされていた。転換の先がけとなったのがカーター政権の航空自由化で、その後、レーガン政権、サッチャー政権で規制緩和と民営化が強力に進められ、世界に広がった。日本でも同じ時期、中曽根政権で国鉄や電電公社の民営化などが実現した。

根底にある考え方は、政府の役人が経済活動をすべて把握して最適配分などできるわけがない、ということだ。経済活動が大きく広がり複雑化する中で、政府の統制は非効率や成長阻害など負の側面が拡大していた。

オークションで入札額に応じて割り当てる

「電波オークション」もその1つだ。かつては世界各国とも、誰に割り当てるべきかは政府が判断する「比較審査」方式がとられていた。しかし、政府の役人は「全知全能」ではないし、政治的圧力で歪んでしまうこともある。それならば、「オークション」で入札額に応じて割り当てたほうが、公正に有効利用が図れるはずだ。

もともとは経済学者のロナルド・コースが1950年代に提唱し、「規制緩和」の流れの中で議論が本格化し、1980年代末以降、携帯電話の普及とともに世界各国で導入された。今や、先進諸国はもちろん、インド、タイ、台湾などにも広がっている。

実務の進展と連動して学術研究も進み、2020年ノーベル経済学賞には、電波オークションの理論的研究を行ったスタンフォード大のポール・ミルグロム教授、ロバート・ウィルソン名誉教授が選ばれた。ミルグロム氏が制度設計を担った2G周波数オークションの成功は、3G以降に多くの国でのオークション導入につながったとされる。

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