京大前総長「哲学なき技術先行時代は終わる」 世界を激変させる「老化は病気」という認識
人生100年時代とも言われるように、人類はかつてないほど長生きするようになった。しかし、私たちはよりよく生きるようになったと言えるだろうか? もしいくつになっても若い体や心のままで生きることが可能となったら、社会、ビジネス、あなたの人生はどう変わるのだろうか?
ハーバード大学医学大学院の教授で、老化研究の第一人者であるデビッド・A・シンクレア氏が、人類が「老いない身体」を手に入れる未来がすぐそこに迫っていることを示した、全米ベストセラー『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』の日本語訳がついに刊行された。
「老化そのものを止める世界へ、一気に向かうと予感させるほどの説得力がこの本にはあります」──そう語る山極壽一・京都大学前総長は、人類学・霊長類学を専門とする視点から、老いなき世界をどう見るのか。前・後編でお届けする。
「老化は病気」と認めることのインパクト
「老化は病気である」と言い切ったことが『ライフスパン』のすごいところです。
今、老化は病気とは認められていません。当然、診察の対象にも保険の対象にもなりません。老化を防ぐための薬や治療には、非常に高額な費用がかかります。つまり、お金持ちしか寿命を延ばすことができないということになっている。ところが、老化が病気として認められれば、ここに斬り込むことになるのです。
著者のデビッド・シンクレア氏は、現在の医学は、年齢と経済状態によって治療の方向性を決めていると述べています。同じ病気でも20代の若者と70代の高齢者、あるいはお金持ちとそうでない人とでは治療のやり方が違う。
日本には国民皆保険制度がありますが、例えば、がんの治療薬として圧倒的な効果のある「オプジーボ」は、保険の対象であっても、やはり高額で一般庶民には手が出ません。
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