京大前総長「哲学なき技術先行時代は終わる」 世界を激変させる「老化は病気」という認識

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現在、マウス、ラット、酵母などを使った実験が研究室で行われており、続々と開発が進んでいます。この流れは一気に加速するのではないかと予感させるほどの説得力があります。

シンクレア氏は、とくに卵巣に注目しています。卵巣とは、次世代をつくり、そしていちばん最初に老化が始まる臓器でもあります。女性は年をとると閉経して自然状態では子供を産めなくなりますが、老化を防げば、いつでも産めるということになる。

似たようなことが、さまざまな医学の分野から注目されています。例えば、山中伸弥さんのiPS細胞は、細胞がいろいろな臓器に分化する手前の多能性幹細胞の研究です。老化や傷んだ臓器をiPS細胞によって新しく作り直すという取り組みが始まっていますが、『ライフスパン』の世界と同じ発想かもしれません。

少子高齢化や環境問題への解決策

また、老化治療が実現して、人間の寿命が延びれば、人口は爆発的に増加します。日本が陥っている少子高齢化という問題も、一気に解決してしまうかもしれません。

今言われる「高齢者」とは、健康な高齢者ではなく、「傷んだ高齢者」のことです。平均寿命と健康寿命との間には10年もの開きがあり、介護が必要な高齢者が増えてゆき、医療費は膨らみ、それを若年層では担いきれなくなりつつある。

しかし、老化現象そのものが解決すれば、医療費がかからなくなります。何歳になっても健康で働くことができて、労働人口、労働年齢もどんどん上がってゆく。

世界人口が増えすぎると、環境が持たなくなるという問題が出てきますが、それは乗り越えられるでしょう。地球の環境問題は、人口の問題ではなく消費の問題だからです。例えば、日本は、生産した食料の半分を捨てています。これをもっと有効に使えばいい。

そして、地球環境を食いつぶしているのは、人間だけでなく家畜もです。世界には牛が15億頭、山羊、羊、豚がそれぞれ10億頭もいて、野生動物とは3~4桁も数が違う。その飼料も地球環境を傷めながら作っているわけです。

しかし、牛に変わる植物性たんぱく質を使うというような技術が進めば、家畜の数が減り、飼料も減らせる可能性が出てくる。地球環境を傷めることなく、人間が必要な食料を得られる科学技術が発達すれば、もっと人間を支えるキャパシティーも増えるというわけです。

もう1つ問題があります。高齢になっても健康でいられるということなら、若いうちに焦って何かをするという話ではなくなってくる。さらに、今の社会のように世代交代がうまく回転しなくなり、なおかつその間に、格差が生じる可能性もあるでしょう。

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